「低炭素電源」を2050年に9割超へ、温暖化対策で地域経済を潤す:法制度・規制(3/3 ページ)
環境大臣の私的懇談会が国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに80%削減するための長期戦略を提言した。地域の再生可能エネルギーを中心に排出量の少ない電源の比率を9割以上に高める一方、建物の低炭素化や都市のコンパクト化を推進してエネルギー消費量を40%削減する。
国全体で2030年に3.4兆円の付加価値
提言では各種の気候変動対策を通じて社会構造にイノベーションが起こり、商品の付加価値が高まって経済が好循環していくことを予想する。低炭素型の商品が「環境価値」を生み出しながら、「グリーン新市場」の創造にもつながっていく(図7)。
たとえ人口が減少しても高付加価値の商品を作ることができれば、高い賃金をもたらして消費を拡大させる効果が期待できる。欧米の先進国では温室効果ガス排出量と労働生産性のあいだに多少ながら相関も見られる。GDPあたりの温室効果ガス排出量が少ない国ほど、労働時間に対する付加価値(生産活動などによって生み出される価値)が大きくなる傾向がある(図8)。
日本国内で2030年までにCO2排出量を26%削減する目標を達成できると、試算では国全体で約3.4兆円の付加価値が増大する。再生可能エネルギーの拡大と省エネルギーの進展によって、地域のエネルギー収支が改善することに加えて、地域に対するエネルギー投資が新たな需要を生むからだ。
自治体ごとに付加価値の増減を推定すると、99.5%の自治体で付加価値が増加する結果になった。特に北海道から本州の日本海側を中心に地方の増加率が高い(図9)。特に地域の資源を活用できる再生可能エネルギーの導入効果が大きく表れる。
こうした環境面の付加価値を地域経済の活性化につなげるために、CO2排出量に価格をつける「カーボンプライシング」が施策の1つになる。化石燃料の使用量に対する「炭素税」の導入や、企業間・国家間で排出量を取引できる制度が代表例だ。カーボンプライシングが低炭素型の商品や技術の開発を促すことも期待できる。
環境省は22年前の1994年から、地球温暖化を含む国内外の環境保全に関する施策を「環境基本計画」として定めてきた。これまで6年ごとに第4次まで作り直していることから、次の「第5次環境基本計画」を2年後の2018年に策定する見通しだ。その中に懇談会の提言内容を盛り込む可能性が大きい。
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