水素エネルギーの国家プロジェクト、2020年に低炭素な街づくりを実証:自然エネルギー(3/3 ページ)
政府は東京オリンピック・パラリンピックで低炭素な水素社会を世界にアピールするために、各省庁が連携して技術開発を推進していく。中核を担う内閣府がCO2フリーの水素を輸送する「エネルギーキャリア」の構築を主導する一方、経済産業省や環境省などは水素の製造・利用面に注力する。
大都市と地方に水素サプライチェーンが広がる
水素を利用する取り組みでは、家庭や企業向けの燃料電池や燃料電池車を経済産業省が普及させながら、燃料電池を搭載したフォークリフトやゴミ収集車の実証プロジェクトを環境省が担当する(図7)。
すでに燃料電池フォークリフトの実証試験を関西国際空港で開始した。ゴミ収集車は2015年度中に詳細設計を完了して、2016年度に実証試験を開始する予定になっている。このほかに環境省は長崎県の五島列島で、洋上風力発電で作った電力から水素を製造して燃料電池船を走らせる実証試験を実施済みだ(図8)。
東京オリンピック・パラリンピックでは、海上の交通手段として燃料電池船を導入する計画もある。ただし海上の大気中に含まれる塩分が燃料電池の性能を劣化させる可能性があるほか、船の揺れや衝撃によって燃料電池が破損することも考えられる。このため国土交通省は燃料電池船の「安全ガイドライン」を2017年度までに策定して、塩害対策や衝撃対策を徹底させる方針だ(図9)。
2015年度に入ってからCO2フリーの水素を製造・利用する取り組みが全国各地に広がってきた。代表的な事例は環境省の支援による水素サプライチェーンの実証プロジェクトで、神奈川県の横浜市など5カ所で進んでいる(図10)。
横浜市ではトヨタ自動車が中心になって、風力発電所の電力で水素を製造する計画だ。製造した水素はトラックで臨海部の倉庫や工場まで運んで、燃料電池フォークリフトに供給する(図11)。2016〜2019年度の4年間で実証に取り組む。
再生可能エネルギーが豊富な北海道では2つの実証プロジェクトを予定している。酪農が盛んな鹿追町(しかおいちょう)では、乳牛の排せつ物からバイオガスを精製するプラントが稼働している。このバイオガスから水素を製造して、周辺の畜産農家などに設置した燃料電池で電力と温水を供給する試みだ(図12)。
もう1つのプロジェクトは白糠町(しらぬかちょう)にあるダムに小水力発電所を建設して、発電した電力で水を電気分解して水素を製造する。製造した水素は高圧の状態でトレーラーなどを使って近隣地域に輸送する計画だ。再生可能エネルギーと水素を組み合わせてエネルギーの地産地消を進めることで、広い北海道にも低炭素な街づくりを展開していく。
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