電力会社に独占禁止法の新たな規制、スイッチングの妨害などが対象に:動き出す電力システム改革(56)(3/3 ページ)
電力の取引に関しては経済産業省と公正取引委員会が共同で作成した指針があり、小売全面自由化を前に内容を改定した。小売・卸売・託送の3分野を中心に問題となる行為を挙げて、独占禁止法や電気事業法に違反する可能性を示している。特に電力会社に対する規制を数多く盛り込んだ点が特徴だ。
インサイダー取引や相場操縦の防止策も
電力会社の発電部門が担う卸売分野では、2つの望ましい行為と3つの問題になる行為が指針に加わった(図7)。望ましい行為では供給力の足りない小売電気事業者に対する「常時バックアップ」の適正な量が示された。常時バックアップは小売電気事業者が電力会社と契約を結んで、供給力の不足分を補うための対策である。
指針では小売電気事業者が需要を拡大した電力量に対して、電力会社の発電部門が一定の割合を確保するように求めている。企業や自治体が利用する特別高圧と高圧の場合には需要の拡大量の3割程度、家庭や商店が利用する低圧では1割程度の確保が適当であると具体的な数値を示した。
もう1つの望ましい行為として、証券市場と同様にインサイダー取引や相場操縦を防止する監視体制の構築を求めた。小売全面自由化に合わせて卸電力市場の取引量を拡大する必要がある。取引が活発になっていくと、電力の流通状況による価格の変動が取引金額を大きく左右するようになる。
電力会社の発電部門のように供給量の多い事業者が発電所の運転・停止情報などを特定の関係者だけで共有する場合に、厳重に情報を管理しないとインサイダー取引や相場操縦につながる可能性がある。大手の発電事業者は防止策として内部の監視体制を強化する必要があるわけだ。当然ながらインサイダー取引や相場操縦は違法行為にあたる。
このほかに電力会社の発電部門が卸電力市場に供給する電力量を不当に制限した場合には独占禁止法で問題になる。あるいは常時バックアップ契約を結んでいる小売電気事業者に対して供給量を制限することも同様に法律違反の対象に入る。
電力会社の送配電部門が担う託送分野では、同じ電力会社の発電部門や小売部門を優遇しないように、望ましい行為と問題になる行為を明記した(図8)。送配電部門が発電部門や小売部門の業務の一部を受託する場合や、逆に送配電部門の業務の一部を発電部門や小売部門に委託する場合には、情報公開や公募を通じて他の事業者にも同等の権利を与えるように求めている。
関連記事
- 小売営業ガイドラインが固まる、セット販売の説明や電源構成の開示など
政府は電力の小売営業に関するガイドラインの素案を策定した。小売電気事業者に家庭向け標準メニューの公表を求めるほか、ガスや電話とセット販売する場合の割引・解除条件の説明も必要とする。原子力や再生可能エネルギーを含む電源構成の開示は義務化せずに、「望ましい行為」にとどめる。 - 家庭向けの電力小売自由化、4月1日スタートへ準備が進む
いよいよ開始まで2カ月を切り、小売全面自由化の実施体制が整ってきた。すでに169社が小売電気事業者の登録を済ませて、割安な料金プランで顧客を拡大中だ。契約変更の申込件数は早くも5万件を超えた。全国各地で変更の手続きを迅速に処理するスイッチング支援システムは3月から稼働する。 - 東京電力が大失態、スマートメーターの設置に大幅な遅れ
小売全面自由化を前に東京電力が混乱をきたしている。2月と3月に合計93万台のスマートメーターを設置する計画だったが、最新の見通しでは75万台しか設置できない。工事会社と契約の未締結や作業員の離散が原因だという。小売電気事業者に対して契約変更を遅らせるよう異例の依頼を出した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.