電力システムにおけるセキュリティの現在とこれから:「電力」に迫るサイバーテロの危機(8)(4/4 ページ)
電力自由化やスマートメーター普及など、より効率的な電力供給が進む一方、「サイバーセキュリティ」が電力システムの重要課題になりつつある。本連載では、先行する海外の取り組みを参考にしながら、電力システムにおけるサイバーセキュリティに何が必要かということを解説してきた。最終回となる今回は、日本の電力システムセキュリティの今後の方向性について筆者の考えを紹介する。
終わりに
本連載中にも、ウクライナ西部において、サイバー攻撃による停電が発生(関連記事)したり、欧米で新しい規制/ガイドラインの策定が進んだりするなど、電力システムのセキュリティの重要性は日に日に増してきている。ここまで述べてきた「電力システムセキュリティの文化」の形成の目的は、東京オリンピック・パラリンピックを乗り切るだけではなく、今後予想される電力システムのオープン化およびIoTの進展の中で、ますます脅威を増すであろうサイバー攻撃から、電力の安定供給を守ることだ。
日本国内において、「電力システムセキュリティの文化」が形成されるためには、前ページで述べたように、規制/ガイドラインを有効に機能させた上で、電力会社自身による積極的な変革が必要だ。しかし、現在の日本では「電力システムに対するサイバー攻撃は起こらないだろう」と心の底では思っている人がまだまだ多いと思われる。確かに、現状では、自営の通信網を持っているなどのいくつかの理由から、他国と比べて、サイバー攻撃が成功して停電などの障害が発生するリスクが低い部分もあるだろうが、そのようなクローズドなシステムにおいても内通者やテロを含めて、決してリスクがないわけではない。
また、現状の低リスクは、高コストな電力システムに支えられていることにも留意しなければならない。今後の電力システム改革の進展において、各電力会社が、他社との競争のためのコストダウンを迫られたときに、低コストだが、適切な対策なしにはセキュリティレベルが低下する選択肢も出てくるだろう。そこでクローズドなシステムにこだわるあまりリスクを取ることができなければ、競争の波の中で淘汰されてしまうことも考えられる。
従って、少し大げさかもしれないが、「電力システムに対するサイバー攻撃は起こらないだろう」と思っている人たちが、いかに心変わりをして、それぞれの立場で「電力システムセキュリティの文化」形成に貢献するかが、電力システム改革の成否の1つであるといってもよいだろう。本連載が、その心変わりのための一助となることを切に願っている。
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