人工光合成で水素を製造するシート、太陽光に反応する光触媒が水を分解:自然エネルギー(2/2 ページ)
再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を製造する試みの1つに、光触媒を使って水を分解する方法がある。NEDOなどの研究チームは2種類の光触媒を混合したシートを使って効率的な水素の製造方法を開発中だ。最新の研究成果では太陽光エネルギーのうち1.1%を水素に変換することができた。
スクリーン印刷で安く大量に製造できる
人工光合成プロジェクトの研究チームは光触媒シートの実用化に向けて、簡便な仕組みで大量に生産する方法の開発も進めている。現在までに一般的なスクリーン印刷の技術を使って、粉末状の光触媒と導電性の粒子をガラス基板に塗布することに成功した。塗布後に焼成すれば、混合粉末型の光触媒シートができあがる(図5)。
スクリーン印刷で作った光触媒シートでも水素と酸素を安定して発生することを確認済みだ。コストの安いスクリーン印刷で光触媒シートを製造できれば、水を分解して水素を製造するコストが大幅に下がる。
10年計画で進める人工光合成プロジェクトでは3つの研究開発分野がある。1つ目が光触媒による水素(H2)と酸素(O2)の製造だ。2つ目は水素と酸素が混ざり合った状態のガスから水素だけを回収する分離膜の開発である。さらに水素と二酸化炭素(CO2)を使って化学品の原料になるオレフィンを製造する(図6)。
プロジェクトの構想では、太陽光エネルギーを水素に変換する効率が10%になれば、広さが2万平方メートルのプラントから1日に233キログラムの水素を製造することができる。これは燃料電池自動車で43台分に相当する量になる。エネファームなどの燃料電池に供給してCO2フリーの電力と熱を生み出すことも可能だ。
あるいはCO2と反応させてオレフィン(CH2化合物)を作る方法によってCO2を削減できる(図7)。オレフィンはポリエチレンなど化学品の原料になる。通常は石油からオレフィンを作る方法が一般的だが、人工光合成で作ればCO2を排出する代わりに吸収する効果がある。
人工光合成の一連のプロセスを確立できると、火力発電所と組み合わせてCO2排出量の削減につなげることができる。火力発電に伴って発生するCO2を分離・回収して、化学品やバイオ燃料の原料を製造する取り組みが進んでいる(図8)。火力発電の比率が大きい日本では、温暖化対策のためにCO2を回収して利用できるメリットは大きい。
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