電気料金の値下げを見送る関西電力、コスト高い石油火力を使い続ける非効率:電力供給サービス(2/2 ページ)
関西電力は5月に実施する予定だった電気料金の値下げを見送った。大津地方裁判所が再稼働禁止の仮処分命令を出したためだが、関西電力が見過ごしている重要な点が2つある。1つは仮処分を申請したのは関西電力の顧客であること、もう1つは発電コストの高い石油火力を使い続けている問題だ。
石油火力の発電コストは太陽光よりも高い
石油火力の発電コストが高いことは以前から明らかだったにもかかわらず、関西電力はLNG火力や石炭火力へ移行する計画を積極的に進めてこなかった。政府が試算した電源別の発電コストによると、2014年の時点で石油火力は電力1kWh(キロワット時)あたり30.6〜43.4円もかかっている(図4)。太陽光発電より高くて、全電源の中で最高だ。
東京電力や中部電力はLNG火力の比率を高める一方、北陸電力や中国電力は石炭火力を増やして電気料金の値上げを回避してきた。これに対して関西電力では老朽化した石油火力発電設備の更新が進んでいない。運転中の10カ所の火力発電所(図5)のうち、現在も石油火力が4カ所を占めている。
最大の石油火力発電所は和歌山県で運転中の「海南発電所」である(図6)。発電能力は4基で210万kW(キロワット)にのぼる。1号機と2号機は1970年に運転を開始して、すでに45年以上を経過した。最も新しい3号機も4月で丸42年を迎える。老朽化した石油火力は発電効率が低く、CO2(二酸化炭素)の排出量が多い。原子力発電所の再稼働よりも前に高効率のLNG火力へ転換することが電力会社に共通する重要な課題だ。
しかし関西電力が2015年3月に国に提出した供給計画によると、火力発電所の設備更新と新設は3件だけである。兵庫県の「相生発電所」で石油(重油・原油)からLNG・石油の混焼設備へ転換、同じ兵庫県の「赤穂発電所」で石油から石炭へ転換するほか、和歌山県にLNGの「和歌山発電所」を新設する計画だ(図7)。ただし和歌山発電所の運転開始は2025年度以降になる。
一方で廃止するのは原子力の「美浜発電所」の1・2号機とLNG火力の「姫路第二発電所」の5・6号機だけだ。10年先の2025年度以降に和歌山発電所が運転を開始するまでのあいだ、関西電力の電源構成は大きく変わらない。
計画どおりに原子力発電所を再稼働できなければ、少なくとも10年間は発電コストの高い石油火力で大量の電力を作り続けなくてはならない。もしそのあいだに電気料金を値下げできなかったら、数多くの顧客が流出することは確実である。これは裁判所の責任ではなくて、明らかに経営の責任だ。
原子力発電所の再稼働禁止を求めたのは滋賀県の住民で、現時点では関西電力の顧客である。滋賀県では「原発に依存しない新しいエネルギー社会」を目指して、「しがエネルギービジョン」を策定中だ(図8)。2030年に関西電力の原子力発電所がゼロになることを想定して、災害に強い再生可能エネルギーの導入量を拡大することが柱になっている。
関西電力は顧客に目を向けた経営方針に早く転換しないと、企業として存続できなくなる恐れさえある。2020年4月に実施する発送電分離によって発電・送配電・小売の3事業部門に分割した場合、確実に生き残れるのは送配電部門だけである。老朽化した石油火力発電所と原子力発電所を抱える発電部門の競争力は低く、大量に顧客を失う小売部門は事業規模の縮小を余儀なくされる。いまや発送電分離までに残された時間は4年しかない。
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