風力で作る水素サプライチェーン実証、補助金に頼らない水素社会への第一歩に:自然エネルギー(3/3 ページ)
神奈川県の京浜臨海地区で、低炭素な水素サプライチェーンの構築に向けた産学連携の実証事業が始まる。神奈川県、トヨタ、岩谷産業、東芝などが連携し、再生可能エネルギーを利用したCO2フリーな水素の製造と貯蔵、そして利用までを含んだ水素サプライチェーンを構築する。約4年かけて課題となるコストの部分やエネルギーのマネジメント、CO2削減効果などを検証する。
さまざまな環境で燃料電池フォークリフトの実用性を検証
こうした製造された水素を実際に使用する燃料電池フォークリフトは、豊田自動織機が開発した車両を利用する。重量2500kg、水素搭載量は13.4Nm3で、35MPaの圧力で3分充填すると約8時間稼働できる(図8)。
今回の実証では合計12台の燃料電池フォークリフトを使用する。導入先は4か所で、キリンビール、ナカムラロジ、ニチレイロジグループの倉庫内と中央卸売市場が予定されている。「短距離・多頻度」「重量物運搬」「低温環境」というように導入先ごとに燃料電池フォークリフトの利用方法が異なっており、さまざまな環境で使用して燃料電池フォークリフトの実用性についても検証していく(図9)。
物流燃料電池フォークリフトを導入するメリットは「水しか排出しない」という環境性能の他にも複数あるという。例えば一般的な電動フォークリフトの場合、1つのバッテリーにつき6〜8時間の充電が必要になる。燃料電池フォークリフトに置き換えればこうした手間を省ける他、予備バッテリーの購入や保管が不要になる。米国では既に2万台の燃料電池フォークリフトが稼働しているという。
今回の実証事業では再生可能エネルギー、水素、燃料電池フォークリフトの活用などによって、電動フォークリフトやガソリンフォークリフト利用時のサプライチェーンと比べて、CO2を80%削減できる見込みだ。
最大の課題であるコストを徹底検証
現状、再生可能エネルギーと貯蔵システムを活用した水素の価格はどうしても高額になってしまう。今回の実証では4カ年の間にこうしたコスト評価や、コスト低減につながる技術の要点の検証なども進める。同時に水素の量産体制の整備や水素に関連する規制緩和項目などの洗い出しにも取り組み、今後の水素価格の低減に向けた対応の方向性についても検討する。さらに2030年頃を見据え、サプライチェーンの大規模化や今回の実証の成果を他地域にも展開していきたい考えだ。
今回の実証に参画する4社を取りまとめるトヨタの専務役員を務める友山茂樹氏は「将来的に、水素事業は補助金がなくても成立するようにしていかなければならない。そのためにも今回の実証事業はコストの観点をしっかりともって進めていく。そして日本企業がよく指摘される『技術で買って事業で負ける』といったことにならないよう、強固な産学連携の体制を構築し、最終的な実用化を見据え、ユーザー(燃料電池フォークリフトの導入先)には決して迷惑を掛けない事業として運営していきたい」と語った。
今後のスケジュールは、まず2016年度から実証に必要な設備の設置工事を開始する。同年秋をめどに一部設備の稼働を開始する。全てのシステムが稼働するのは2017年度中になる見込みだ(図11)。
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