水素社会を目指す国家戦略が前進、燃料電池車を2030年に80万台へ:蓄電・発電機器(4/4 ページ)
政府が「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を改訂した。新たに燃料電池車の導入目標を設定して2030年に80万台の普及を目指す。合わせて水素ステーションを2025年度までに320カ所へ拡大する方針だ。再生可能エネルギーから水素を製造する技術についても2016年度内に具体策の検討に入る。
水素発電のコストは石油の半分以下に
現在のところエネファームや燃料電池車で使う水素の大半は化石燃料で作られている。製造時にCO2を排出するため、必ずしも環境にやさしいとは言えない。今後は海外を中心に未利用のエネルギーから水素を製造する方法に加えて、再生可能エネルギーから水素を製造する技術の開発にも注力する(図9)。
戦略ロードマップでは燃料電池車の普及と同時に水素発電の導入を本格的に開始するために、海外から調達する水素の価格を2030年までに30円/Nm3(ノルマルリューベ)へ低下させる目標を掲げた(図10)。この水準は現時点の水素ステーションで販売している水素の価格(1キログラムあたり1000〜1100円)と同等で、燃料電池車の燃費がハイブリッド車並みになる。
同じレベルの価格の水素をガスタービン発電などに利用した場合には、発電コストが17円/kWh(キロワット時)になる見通しだ。石炭やLNG(液化天然ガス)の発電コストは12〜14円/kWh程度で、その水準に近づく。そうなれば2030年代には発電所の燃料に水素を利用することが期待できる。石油の発電コストは30円/kWhを超えることから、石油火力の代替手段としても水素の利用を見込める(図11)。
ただし水素は常温・常圧では気体の状態だ。海外から大量に調達するためには、効率的に輸送・貯蔵する仕組みを整備する必要がある。すでに技術開発が進んでいる2つの方法を中心に、2030年までに海外の水素製造プラントと国内の利用拠点を結ぶサプライチェーンを構築していく。水素を常温・常圧で液体に取り込める「有機ハイドライド」に加えて、超低温で水素を液化して輸送する技術の開発と実証にも取り組む(図12)。
さらに2040年代には再生可能エネルギーを使ってCO2フリーの水素を大量に製造・輸送・貯蔵できるインフラの整備を目指す。特に太陽光や風力のように天候によって発電量が変動する場合には、電力を水素に転換して貯蔵・再利用できるメリットは大きい。現状では水を電気分解して水素を製造するコストが高いことから、変換効率を引き上げる技術の開発・実証を通じてコストの低減を図る。
政府は再生可能エネルギーから水素を製造するための技術面と経済面の課題を具体的に洗い出すために、2016年度内に国内の主要な設備メーカーや水素供給事業者などの参加を募ってワーキンググループを立ち上げる予定だ。その中で2030年代に向けて取り組むべきテーマを設定して開発・実証フェーズへ移行する。
いよいよ水素社会の実現を目指す国家戦略がさまざまな分野で動き始める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
水素+再生可能エネルギーで電力と燃料を作る、CO2削減の切り札に
火力発電に伴って大量に発生するCO2の削減が世界全体で緊急課題になっている。CO2を排出しない再生可能エネルギーに加えて水素を活用する取り組みが日本の各地で始まった。下水処理で発生するバイオガスや太陽光・風力・小水力発電から水素を製造して、燃料電池で電力と熱を作り出す。
水素エネルギーの国家プロジェクト、2020年に低炭素な街づくりを実証
政府は東京オリンピック・パラリンピックで低炭素な水素社会を世界にアピールするために、各省庁が連携して技術開発を推進していく。中核を担う内閣府がCO2フリーの水素を輸送する「エネルギーキャリア」の構築を主導する一方、経済産業省や環境省などは水素の製造・利用面に注力する。
2040年に化石燃料を代替する、「水素・燃料電池」の技術革新
自動車から電力まで化石燃料に依存する日本のエネルギーが大きな転換期を迎えている。新たなクリーンエネルギーとして水素の用途が広がり、CO2排出量の削減とエネルギー自給率の向上を一挙に実現できる可能性が高まってきた。製造〜貯蔵・輸送〜利用の各局面で国を挙げた取り組みが進む。



