性能5倍の「蓄電池」、自動車変えるリザーバ型:蓄電・発電機器(5/5 ページ)
新エネルギー・産業技術総合開発機構と京都大学は2016年3月28日、「リザーバ型」と呼ぶ革新型蓄電池の研究成果を3つ発表した。既存のリチウムイオン蓄電池を改善するだけでは、ガソリン車並の走行距離が可能な電気自動車の実現には至らず、リザーバ型が必要になるという。
両極端のイオンの性質に取り組む
ハロゲンのイオンとして、塩化物イオンとフッ化物イオンが候補に挙がったものの、この2つは性質が全く違う。電解液に対する溶けやすさが大きく異なるため、異なる研究アプローチが必要だった。
塩化物イオンは電解液として有機溶媒を選んだときであっても、溶け出してしまう。「溶け出さないようにするために溶媒中の塩を高濃度化し、平衡条件を変えて抑制する手法を確認した。もともと塩化物イオンを溶かしこみにくい電解質も検証した。2つの条件を同時に利用してもよい」(同氏)*7)。
このようにして、高利用率、長寿命化への糸口をつかんだ。
フッ化物イオンを利用したときの課題は、塩化物イオンとは逆だ。水に対しても液体電解質に対してもほとんど溶けない。そこで溶液を使わない全固体電池に取り組んだ。「フッ化物イオンを伝導する固体電解質の研究はこれまでほとんど進んでいなかったものの、今回はモデル薄膜セル(図7左)を作り、高い充放電性能(図7右)を示すことができた」(同氏)。
*7) 水溶液系の電解液を用いる空気亜鉛空気電池では、電解液に亜鉛が過剰に溶けるという塩化物イオンと似た課題がある。今回の手法は空気亜鉛電池の性能改善(高利用率、長寿命)にも利用されているという。
リザーバ型蓄電池が進む道
リザーバ型蓄電池を実用化するには、電解(液)に反応種(電池反応に必要な物質)が適度に溶解することがどうしても必要だ。今回の3つの成果はここに焦点を当てている。反応種が溶けない(フッ化物イオン)、過剰に溶けて散り散りになる(塩化物イオン、硫黄)という課題を解決する糸口を見付けることができた。
リザーバ型電池を実用化するために今後必要なことが2つある。まずは冒頭の荒井氏のコメントにあるように、エネルギー密度をさらに高めること。次に、車載用蓄電池に必要な出力特性(パワー性能)と安全性を高める研究開発だ。2030年に向けた実用化に期待が掛かる。
関連記事
- 容量2倍のリチウム電池、重さは変わらず
炭素以外の優れた材料を電極に取り込む。これがリチウムイオン蓄電池の容量を増やす秘訣だ。日立マクセルのULSiON技術は、炭素とシリコンを利用して蓄電池のエネルギー密度を約2倍に高めるというもの。蓄電池の利用時間が2倍に延び、ユーザーの利便性が高まる。 - 癖のある「硫黄」を使って容量3倍、次世代リチウム蓄電池
GSユアサは2014年11月、次世代リチウムイオン蓄電池セルを試作、エネルギー密度を従来比3倍に高めることに成功したと発表した。高性能ながら、電池に向かない性質を持つ「硫黄」を手なずけることで実現した。 - 容量はリチウムイオン電池の6倍以上、「リチウム空気電池」の実用化に一歩前進
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の陳明偉教授らが、一般的なリチウムイオン電池の6倍以上の電気容量を持ち、100回以上繰り返し使用が可能なリチウム空気電池の開発に成功した。 - 国内需要に匹敵するリチウム、2万トン弱をアルゼンチンで確保
年間生産量1万7500トンという大規模なリチウムの製造がアルゼンチンで始まる。これは日本全体の消費量に匹敵する規模だ。100%の販売代理権を持つ豊田通商は全世界にリチウム資源の販売を開始、2015年1月には日本への出荷を開始する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.