いよいよ始まった電力の小売全面自由化 300社が料金とサービスを競う:動き出す電力システム改革(57)(2/2 ページ)
2016年4月1日は日本のエネルギー産業にとって大きな節目になる。家庭向けの電力小売を自由化するのと同時に、従来の電力会社を頂点とする市場構造の転換が始まるからだ。電力会社を含めて300社を超える事業者が料金とサービスの両面で競争して需要家にメリットをもたらす。
小売全面自由化で電気料金は下がる
日本の電気料金は原油の輸入価格が高騰した「第二次石油危機(オイルショック)」後の1980年代には現在よりも高い水準にあった。その後は標準メニューのほかに「選択約款」を可能にした1995年の「第一次制度改革」、さらに小売の部分自由化を開始した2000年の「第二次制度改革」を経て次第に下がっていった(図5)。
2008年の「リーマンショック」で化石燃料の輸入価格が一時的に高騰した期間を除くと、電気料金の低下傾向が長く続いた。しかし東日本大震災が発生した2011年から急上昇して、20年前の1990年代と同等の水準まで戻ってしまった。それでも2015年に入ると化石燃料の輸入価格が大幅に下落したことに加えて、新たに小売全面自由化による競争の進展で再び電気料金は安くなっていく見通しだ。
実は欧米の先進国では2000年前後に小売全面自由化を実施したものの、電気料金が安くならずに、むしろ上昇している(図6)。最大の理由は化石燃料の価格が高くなったことにあるが、国によっては競争の激化で事業者が減って電気料金の上昇を招いてしまったケースも見られる。
日本でも同様の問題が発生する懸念はあるが、その可能性は小さいだろう。1つには電力会社に対抗する小売電気事業者に有力企業が多く、資金力に加えて営業・技術・サービス面の競争力が高いからだ。みずから発電所を運営して供給力を確保している事業者も少なくない。
もう1つの要因は4年後の2020年4月1日に実施する発送電分離によって、電力会社は発電部門と小売部門を送配電部門から分離して独立採算で事業を運営しなくてはならない。発電部門が供給する電力の単価(発電料)が安い場合には、同等の条件で他の小売電気事業者も調達できるようになる(図7)。
さらに電力会社の小売部門は他社と同じ単価で送配電ネットワークを利用する必要がある。現在のように1つの電力会社の中でコストを配分して事業を運営することはできなくなる(図8)。その一方で送配電部門は国の規制を受けながら送配電ネットワークの単価(託送料)を決める必要があり、審査を通じて最大限のコスト削減を求められる。
日本の電力システムの改革は小売全面自由化で始まった第2段階に続いて、第3段階の発送電分離(送配電部門の法的分離)を2020年4月1日に実施することで本当の自由競争の状態になる(図9)。この時点で電力会社の小売部門に課せられた「経過措置約款」による認可料金は廃止されて、他の小売電気事業者と対等に自由料金メニューだけで競争に入る。
関連記事
- 電力・ガス・電話のメガ競争が始まり、電気料金は確実に安くなる
いよいよ電力の小売事業が4月1日から全面的に自由になる。全国で7.5兆円にのぼる家庭の電力市場に向けて、ガス会社を筆頭に有力企業が続々と乗り出してくる。携帯電話やインターネットサービスと組み合わせたセット割引も始まり、電力会社と新規参入事業者の競争が各地域へ広がっていく。 - 新電力のシェアが10%に近づく、家庭向けは東京ガスが10万件を突破
2000年に始まった電力の小売自由化が16年を経過して軌道に乗ってきた。企業向けに販売する新電力のシェアが2015年度に入ってから急上昇して8%台に達した。まもなく自由化が始まる家庭向けでも新規参入組の躍進が目立つ。ただし適正な営業活動の徹底や電源構成の開示などに課題が残る。 - 家庭向けの電力小売自由化、4月1日スタートへ準備が進む
いよいよ開始まで2カ月を切り、小売全面自由化の実施体制が整ってきた。すでに169社が小売電気事業者の登録を済ませて、割安な料金プランで顧客を拡大中だ。契約変更の申込件数は早くも5万件を超えた。全国各地で変更の手続きを迅速に処理するスイッチング支援システムは3月から稼働する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.