夏の電力は今年も心配なし、原子力ゼロの関西も予備率6%台に:電力供給サービス(2/2 ページ)
電力の需要が増える7月〜9月の需給予測がまとまった。需要のピークに対する供給力の予備率は全国平均で8%以上を確保できる見通しで、停電の心配が生じる3%を大きく上回る。従来は夏の予備率を3%で予測していた関西電力も6%台に改善する。節電効果に加えて新電力へ離脱する影響が大きい。
太陽光の供給力が2割を超える地域も
東日本大震災の前と後で電力会社の供給力の中身は大きく変わった。震災前の2010年の夏には原子力が全体の2割近くを占めていたが、2016年の夏は九州電力が運転中の「川内原子力発電所」の2基(178万kW)だけが供給力に含まれている(図5)。
原子力に代わって増加したのは再生可能エネルギーだ。安定的に見込める供給力は全国9地域の合計で768万kWにのぼり、原子力発電所の8基分に相当する。震災前と比べると25倍の規模に拡大した。その一方で火力発電は390万kWの増加にとどまる。需要が減少して、火力発電の依存度は小さくなってきた。
関西電力の需給予測の内訳を見ると、最近の傾向がよくわかる。2016年の夏は前年と比べて需要は224万kW減少する想定で、それに合わせて供給力も133万kW少なくなる(図6)。供給力は火力と揚水(余剰電力による水力発電)が減るほか、他社からの融通も大幅に減少する。再生可能エネルギー(新エネ)の調達量だけが82万kWから107万kWへ増加する見通しだ。
北海道を除く各地域で太陽光による供給力が拡大する。最大は中部電力の162万kWで、供給力全体の2割以上を占める(図7)。中国と四国でも太陽光が2割を超えるほか、関西も2割に迫る。意外にも太陽光発電が拡大している九州は1割強にとどまる。太陽光発電は天候によって出力が変動するため、各地域とも供給力を保守的に見込んでいる。九州では2015年の夏に予測の2倍以上の供給力があった。
太陽光発電による供給力が大幅に増加したことで、新たな問題点も浮上してきた。夕方から太陽光の供給力が急速に減少して、一時的に予備率が低下してしまう現象だ。実際に2015年の夏には九州電力の管内で、19時台に予備率が3.4%まで低下する日があった。太陽光の供給力がゼロになる一方、日没後に家庭や企業が照明を点灯したことによる。代わりに火力発電の供給力を増やす必要があるが、その対応が少し遅れた。
今年の夏も同様の問題が発生する可能性は十分にある。そうした状況を想定して、政府の委員会は再生可能エネルギーによる供給力がゼロになった場合の需給予測も開始した。各地域の再生可能エネルギーの大半を太陽光が占めている。日没後に電力需要が増加しても、需給率が危険な水準まで低下しないことを確認する必要がある。
九州では再生可能エネルギーの供給力がゼロになった場合には、8月の予備率が4.3ポイント低下する。とはいえ、もともとの予備率の予測値が14.1%もあるため、かりに4.3ポイントダウンしても予備率は9.8%の高い水準を維持できる(図8)。
このほかに関西で予備率が2.0ポイント低下する可能性があるが、それでも4.8%にとどまる。電力会社が夕方以降に太陽光発電の供給力が減少することを想定して、火力発電の出力を増やす準備を進めておけば対応できるレベルだ。同じ地域で大規模な発電所のトラブルが重複して発生しない限り、今年の夏も電力が不足する心配はない。
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