農業用水路にチェコ製の水車発電機、未利用の水流で265世帯分の電力を作る:自然エネルギー(2/2 ページ)
起伏の激しい岐阜県の山間部を流れる農業用水路を改修して新しい小水力発電所が運転を開始した。64メートルの大きな落差を生かすためにチェコ製の水車発電機を使っている。農業用水路は大正時代に造ったもので、自治体と民間企業が連携して発電事業による地域の活性化に取り組む。
建築材料を使い分けて水路を改修
水路の改修は2通りの方法で実施した(図4)。1つの方法はU字フリュームをベンチフリュームに入れ替えて、横幅を500mm(ミリメートル)から1000mmへ2倍に広げた。ベンチフリュームは高さよりも横幅のほうが長い構造の溝で、さほど強度を必要としない農業用水路には多く使われている。
もう1つの方法は山林の中に古い石積みで造られている区間をモルタルで全面塗布して補強した。モルタルはセメントに砂を混ぜた建築材料で、砂利も加えるコンクリートと比べると高価だが、塗布面が滑らかになって水が流れやすくなる。
このほかに農業用水路の流量を安定させるためのヘッドタンク(上部水槽)を鉄筋コンクリートで全面的に改修した(図5)。小水力発電では水路を流れるごみが水車発電機のトラブルを引き起こすことがある。その防止策として、ごみを除去する除塵機をヘッドタンクに据え付けた。
さらに水車発電機まで水を送り込む水圧管路を敷設したほか、水車発電機を収容する建屋を新設して、小水力発電所が完成した。このように既存の農業用水路を改修して小水力発電に活用すれば、全体の建設費を低く抑えることができる。と同時に水路を共用することによって、農業用水路の維持管理費の軽減にもつながる。
発電所を建設・運転する事業者は飛島建設とオリエンタルコンサルタンツの2社による共同体である(図6)。両社が建設・運転費用を折半で負担する。地元の中津川市は開発の許認可などで支援した。落合地区は水路の使用許可を与える代わりに、補修・清掃点検業務を請け負って収入を得ることができる。
落合地区は江戸時代に東京と京都をつなぐ中山道の「落合宿」として栄えた場所でもある。小水力発電事業に参画したオリエンタルコンサルタンツは落合宿の観光資源を生かして、地域の活性化に取り組んでいく方針だ(図7)。電気自動車の導入や木質バイオマス燃料の製造などを通じて環境保全や防災対策にも役立てる。
関連記事
- 小水力発電で村おこし、農業用水路が新たな価値を生む
面積の8割以上を森林が占める岐阜県には水力とバイオマス資源が豊富にある。過疎に悩む農村では農業用水路に小規模な水力発電機を設置して電力の自給自足が始まった。ダムを利用した小水力発電も相次いで運転を開始する一方、都市部では地域ぐるみのバイオマス発電が広がっていく。 - 人口270人の農村で電力自給率100%に、小水力発電所が本日運転開始
岐阜県の山奥に8年前から小水力発電に取り組んでいる小さな農村がある。新たに国と自治体の支援で農業用水路に発電所を建設して、本日6月1日から稼働する。50年間に人口が4分の1以下に減少した農村が電力を自給しながら、特産品のとうもろこしを生かして地域の活性化を図る。 - 101年前の水力発電所を再生、奈良の山奥で小水力に挑む
過疎に悩む奈良県の東吉野村で小水力発電所を建設するプロジェクトが進んでいる。101年前に運転を開始した水力発電所が廃止されて50年以上を経過したが、村の活性化を目指して発電所の復活に取り組む。古くなった水路を再利用してコストを抑える一方、市民ファンドで建設資金を集める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.