地熱発電を雪深い山の中で、海岸では波力発電に挑む:エネルギー列島2016年版(3)岩手(4/4 ページ)
岩手県で地熱発電の開発が活発に進んでいる。スキー場と温泉が広がる高原地帯に地熱発電所を建設する計画が拡大中だ。太平洋沿岸の漁港では波力発電の実証実験が始まろうとしている。県内の各地で太陽光や風力発電の導入量も増やしながら、2020年に電力の自給率を35%まで高めていく。
高原に巨大なメガソーラーと風力発電所
岩手県では太陽光からバイオマス、海洋エネルギーまで含めて、多種多様な再生可能エネルギーの導入プロジェクトが進み始めた(図10)。実際の導入量では太陽光発電の伸びが大きい。今後さらに太陽光を中心に再生可能エネルギーを拡大して、2020年度には県内の電力の自給率を35%まで高めることが目標だ。
太陽光発電の最新の事例では、県の中部に位置する滝沢市で稼働した「バイテック・漁火館(いさりびかん)滝沢市メガソーラー」の規模が大きい。標高2000メートルを超える岩手山のふもとで2015年12月に運転を開始した(図11)。発電能力は21MWに達して、岩手県内のメガソーラーでは最大だ。
年間の発電量は2180万kWhを見込んでいる。一般家庭の6000世帯分に相当して、滝沢市の総世帯数(2万2000世帯)の3割弱をカバーできる。メガソーラーの建設に伴う総事業費は77億円かかったが、そのうちの68億円を地元の岩手銀行を中心とする東北の主要地銀6行が融資した。
岩手県は風況にも恵まれていて、特に太平洋側の沿岸部と内陸の高原地帯に風力発電に適した場所が広がっている。そのうちの1つが北部の一戸町(いちのへまち)にある高森高原だ。岩手県の企業局が115億円の事業費を投じて「高森高原風力発電所」の建設を進めている(図12)。
標高600メートルを超える高原を走る道路に沿って、合計11基の大型風車を設置する計画だ。発電能力は25MWになる予定で、年間の発電量は5300万kWhにのぼる。1万5000世帯分に相当する電力になり、一戸町の総世帯数(5800世帯)の3倍近くに匹敵する。
すでに環境影響評価のプロセスを完了して、2017年11月に運転を開始する予定だ。発電した電力は固定価格買取制度で東北電力に売電する。1kWhあたりの買取価格は22円(税抜き)で、想定通りの発電量になれば年間の売電収入は11億円を超える。運転維持費を除けば、10年程度で初期投資を回収できる。再生可能エネルギーを拡大しながら、県の収入を増やす効果も見込める。
2015年版(3)岩手:「鉄と魚のまちがエネルギーのまちへ、太平洋の波と風を電力に」
2014年版(3)岩手:「森林から牧場までバイオマス全開、メガワット級の発電設備が増殖中」
2013年版(3)岩手:「風力やバイオマスで自給率35%へ、復興を加速するエネルギー拡大戦略」
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