火力発電の最先端技術を2021年までに確立、CO2削減へ開発を加速:次世代の火力発電ロードマップ(1)(3/3 ページ)
政府は2030年のCO2削減目標を達成するために、次世代の火力発電技術の開発を急ぐ。技術開発のロードマップを6月中に改訂して、官民一体で実用化に取り組んでいく。石炭火力は高効率のガス化複合発電へ、LNG火力は燃焼温度を高めたガスタービン発電機を開発して世界をリードする戦略だ。
石炭火力のCO2を回収する技術革新
発電効率を向上させるのと合わせて、CO2を回収して排出しない技術の開発も進める。特にCO2排出量の多い石炭火力では有効な対策になる。そのうちの1つが「ケミカルルーピング燃焼技術」である。
この燃焼方法では発電設備の内部で金属酸化物(MOx)を循環させながら、石炭と空気が金属酸化物と反応して生じる熱を使って蒸気で発電する(図8)。排気ガスはCO2と窒素が分かれて出てくるために、CO2を分離する必要がなく回収できる。
CO2の分離・回収に必要なコストを現在の4分の1程度まで引き下げることが目標だ。この目標を達成できると、電力1kWhあたり2円程度でCO2を回収できる。発電能力が10万〜50万kWの中規模な石炭火力発電所に適している。
もう1つの効率的なCO2回収方法は「クローズドIGCC」である。IGCCで石炭をガス化する時に酸素を混ぜて燃焼させると、排気ガスの大半がCO2になる。このCO2をガス化炉と燃焼器に戻す方法で、ガス化と燃焼の効率を高めることができる(図9)。CO2を回収しながら発電効率を向上させる一石二鳥の技術だ。
NEDOが立てた目標は発電効率が42%のクローズドIGCCを実用化することである。そのための要素技術を2020年度までに確立させて、2030年代に商用レベルのクローズドIGCCを実現する。
実用化に向けて建設費を低減することも重要な課題になる。これから開発する1700℃級のガスタービン発電機を使ったIGCCと比べて、建設費の増加を15%未満に抑えることが目標だ。低コストでCO2も回収できる革新的な石炭火力の開発に大きな期待がかかる。
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