シビレエイ発電機のプロトタイプを作成
次に、電気器官をデバイスに組み込んだ発電機のプロトタイプ作製を行った。先述した実験で発電自体は可能だったが、電気器官のサイズが一定でなく、シリンジ針を支持体なく電気器官に刺しているため、電圧・電流が電気器官ごとに安定せず、ノイズが発生しやすい状況にあった。これらを解決するには、一定サイズのデバイスに電気器官を組み込むことが必要となる。
そこで、摘出したシビレエイの電気器官を3センチメートル角にカットし、これをアルミやシリコンゴムで作製した容器に固定。発生電力の安定化ならびに直列による電圧増強、並列による電流増強を調べた(図4)。
図4 実際のデバイス写真(右)と、直列デバイスの原理図(左)。3センチメートル角にカットした電気器官に電極をつなぎデバイス化する。このデバイスを直列につなぎ、2個あたり1本のアセチルコリン溶液の入ったシリンジを接続する。1個のデバイスに4本の細管からアセチルコリン溶液が注入される 出典:理研
その結果、16個のデバイスを直列につなぐことでピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAを達成した(図5)。
一般的に電力を活用するためには、常時一定の電力が供給されることが必要となる。しかし、このデバイスで発電した場合、発生電力はアセチルコリン注入後から徐々に低下する。そのため、もしこのデバイスで発電した電力を使用するのであれば、蓄電が必須となる。そこで、デバイスを含む電気回路を構成し蓄電を行った結果、電力はコンデンサーに蓄電され、電池のように利用できることが実証できた(図6)。
図6 蓄電回路図(左)と発電電圧(V、青)とコンデンサ蓄電電圧(Vc、ピンク)。発電後、コンデンサーの電圧が上昇し、それが一定に保たれたことから電力を電池のように一定供給できる可能性を示した。 出典:理研
天然モノに頼らない開発を
今回の研究は、ATPエネルギーのみで実現できる高効率発電機に向けた第一歩だと位置付けられる。しかし、シビレエイは安定・大量に入手できるものではないため、電気器官に相当するものを人工的に構築する必要がある。これを目指し、細胞膜やタンパク質の再構成手法とマイクロ・ナノ流体技術を融合し、分子からボトムアップ的に細胞機構を開発し、発電細胞と同様の材料を創出することを目指すと理研では述べている。
ATPは生物には必ず含まれ、生物が関連するあらゆるところに存在することから、将来的には、このようなデバイスは、生体内の他、食物や排水など、さまざまな環境下に存在するATPやグルコースを利用した微小エネルギー駆動型の環境発電機として応用が期待されている。
関連記事
- 「生きた電池」を細菌で作る、電気を使わない廃水処理へ
さまざまな未利用エネルギーを使って発電する取り組みが進んでいる。東京薬科大学など4つの大学・企業は、廃水を使って発電する「微生物燃料電池」を開発した。従来の廃水処理と同じ効率を達成しつつ、発電が可能だ。 - 常温常圧で水素を取り出す生体触媒を開発、白金の代替に期待
科学技術振興機構は、温和な条件で水素ガスを生成、分解する半合成型鉄ヒドロゲナーゼ酵素の創出に成功したと発表した。 - ミドリムシ燃料、油脂量40%アップの品種改良に成功
微細藻類が生成する油脂を活用したバイオ燃料の研究開発が進んでいる。バイオベンチャーのユーグレナは、油を多く産生する「ユーグレナ」の変異体を選抜する品種改良手法の開発に成功したと発表した。野生株より約40%油脂を多く含むユーグレナ変異体を取得することに成功したという。 - ミドリムシで空を飛ぶ「国産バイオ燃料計画」、製造プラント建設で2020年に実現へ
微細藻類などが生成する油脂を改質して製造するバイオ燃料の実用化に注目が集まっている。バイオベンチャーのユーグレナは、横浜市臨海部にバイオ燃料の製造実証プラントを建設すると発表した。2020年までに実用化する計画だ。 - バイオマス発電+人工光合成で一歩先へ、海洋エネルギーの挑戦も続く
家庭から出る廃棄物を活用するプロジェクトが佐賀市で進んでいる。下水と生ごみから電力を作り、同時に発生するCO2を人工光合成に利用して野菜の栽培や藻類の培養に生かす。沖合では海洋エネルギーの実証実験を進める一方、田んぼでは稲を栽培しながら太陽光発電に取り組む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.