事故損害が高額化する風力発電、事前評価でリスクを把握:自然エネルギー
日本国内への導入拡大が期待されている風力発電。一方で事故や故障による損害額も大きくなる傾向にあり、発電事業者側にとってこうしたリスク管理は重要なポイントだ。損害保険ジャパン日本興亜と東京大学などは、日本の陸上・洋上風力発電所を対象に、事前に事故や故障時における利益損害をシミュレーションできるリスク評価モデルを開発した。
損害保険ジャパン日本興亜とSOMPOリスケアマネジメントは2016年5月、東京大学および英国のSOMPOキャノピアスと共同で、日本の陸上・洋上風力発電所を対象としたリスク評価モデルを開発したと発表した。自然災害や故障による損害、故障・事故時の運転停止に伴う利益損害をシミュレーションで評価できるモデルで、風力発電事業者の適切な保険手配につなげる他、故障・事故時の財務影響分析サービスなどの新商開発に活用していく方針だ。
風力発電所が抱えるリスクは定量的な評価が難しく、さらに事故の損害額も高額化する傾向があり、事業者の経営の不安定化要因につながっている。風車の大型化・ ウィンドファームの大規模化も進んでおり、さらに洋上風力では故障事故の復旧工事に大型作業船が必要になるなど、今後も損害が大規模化する可能性は高い。損害保険会社側も、継続的・安定的な保険提供のために引受リスク管理の強化が課題となっていた。
こうした背景から損保ジャパン日本興亜とSOMPOリスケアマネジメントは、東京大学の研究成果および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の故障・事故データベースを用いて、リ スク評価モデルを開発した。日本の洋上風力発電所を対象としたものとしては世界初の評価モデルになるという。
評価モデルは国際的な設計基準や風車の制御方式、立地状況などによる被害の違いを評価し、陸上・洋上風力発電所における風災、落雷、機械的・電気的故障による物的損害と故障・事故時の運転停止に起因する利益損失を確率的に推定する。欧州や日本の実績値に基づく再建設コスト・修理コストの計算モデルも組み込んでおり、故障・事故に伴う運転停止期間や洋上風力発電所における作業船の傭船コストなども推定できるという。
今後、損害保険ジャパン日本興亜は開発した評価モデルを活用し、発電事業者の適切な保険手配につなる他、故障・事故時の財務影響分析サービスなどのサービスメニューの開発につなげていく方針だ。保険引受においても予想損害額の算出や集積リスク管理、効果的な再保険の手配などに活用する。また、日本以外のアジア地域や北海などの海外地域に建設された風力発電設備への展開も検討を進めていくとしている。
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