地産地消の自立型水素システム、CO2フリー化の敵は太陽電池の置き場所:自然エネルギー(2/2 ページ)
東芝が展開している自立型水素エネルギー供給システム「H2One」。再生可能エネルギーで発電し水の供給が得られ続ければ、クリーンで地産地消のエネルギー生活が行える。さらに水しか排出しないという理想が実現できるというが、現実はそうは甘くない。課題となるのは「スペース」だという。
ハウステンボスや大黒ふ頭などへ導入
東芝では2015年4月に水素社会に向けた取り組み強化を発表(関連記事)しており、これにより「H2One」の本格展開を発表した。発売から約1年がたつが、既に神奈川県川崎市の川崎マリエン(関連記事)や長崎県佐世保市のハウステンボス(関連記事)、横浜市の大黒ふ頭(関連記事)などに販売され、稼働を開始しているという。さらに、JR東日本が行うエコな駅「エコステ」プロジェクトにも参加し川崎市の南武線武蔵溝ノ口駅へ2017年にH2Oneを設置することも決まっているという(関連記事)(図3)。
「自給自足は意外に難しい」
H2One発売後の手応えについて東芝 次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム 参事の嶋田雄二郎氏は「発表後はテレビCMなどを行ったこともあり多くの引き合いがある状況。365日24時間稼働ができる点や化学反応を利用しているため静音性がある点などが評価を受けている。環境対策の面だけでなく、BCP(事業継続計画)などの面での評価も高い」と述べている。
防災やBCPの面では、再生可能エネルギーでの発電を生かした「完全自立型」への期待感もあるが、実際には難しいと嶋田氏は述べる。
「電気分解に必要な十分な電力を得るためには、H2Oneの屋根に設置する太陽光発電設備だけでは不十分。そのため、別の敷地の太陽光発電設備などを用意しなければならないが、スペース面などからなかなか条件で折り合わないケースがある」(図4)
今後に向けては太陽電池以外の再生可能エネルギーとの組み合わせなども推進。H2Oneではないが、北海道釧路で小水力発電と水素による蓄電を組み合わせた実証を行っている他、京浜臨海部では風力発電と水素蓄電を組み合わせた実証なども推進。利用可能な再生可能エネルギーの幅を広げていく方針だ。
水素社会の実現に向けて嶋田氏は「将来的には水素供給体制をどう作るかということが大きな課題となる。工業用水素は既にさまざまな形で流通しているので、決してできない話ではない。水から作り出す電気分解装置の低廉化などさまざまなアプローチが取れると思うが、最適解を生み出していくことが必要だ」と述べている。
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