電力市場17兆円をめぐる現状、参入した事業者のチャンスと課題:電力自由化で勝者になるための条件(1)(2/2 ページ)
従来から企業・自治体向けに高圧の電力を販売していた事業者に加えて、家庭を含む小売全面自由化を機に新たに参入する事業者が一気に拡大した。巨大な電力会社に対抗するために小売電気事業者が実施すべきことは何か。勝者になるために必要な戦略と合わせて解説していく。
電源確保と販売チャネル整備が課題
それぞれの事業者は課題を抱えている。従来から高圧分野に参入していた事業者は家庭を対象にしたB-to-Cのチャネルに弱く、協業や提携により販売チャネルを強化する必要がある。一方で電源をゼロから確保しないといけない新規参入組の場合には、供給力の確保が急務であるのと同時に、電力事業の要となる需給管理業務(需要の予測・計画策定と実需要のバランス調整)などの体制づくりが必要となる(図2)。それに加えて消費者向けのサービスを展開していない事業者にとっては、顧客対応の体制を確立することも欠かせない。
電力の小売事業に参入するにあたっては、電源の確保がライセンス取得の前提となっている。当面は電力会社の常時バックアップを受ければ、ある程度の供給力は確保できる。とはいえ再生可能エネルギーによる分散型の電源と日本卸電力取引所(JEPX)からの調達だけでは、需要家の増加に対応できなくなる。ベースとなる電源は確実に確保しておきたいところである。低コストで安定供給が継続できる電源を保有している事業者や、これから電源を保有しようとしている発電事業者とのあいだで早期に提携する必要がある。
これに対して従来の高圧分野で実績を積んできた事業者は、ある程度の電源を確保できている(図3)。低圧分野の事業の備えを早くから実施して、従来の延長線上でビジネス展開を想定できた。ただしB-to-Cの販売チャネルを確立できていない事業者が多く、そうした事業者は取次や販売代理ができる企業との提携を模索している。
高圧分野からの事業者の中には、BG(バランシンググループ:代表の事業者が計画値同時同量を支える需給管理を取りまとめるグループ)を構成し、他の小売事業者を巻き込んだ勢力を構築する動きも見られる。あるいは需要家のチャネルを持っているグループ企業と連携するスキームを考えている事業者も少なくない。
電源を確保できている事業者のもとには提携・協業したいという話が日々持ち込まれているようだが、当面は低圧分野の事業に参入しないところもある。電源を保有している事業者の多くはグループ企業への供給を優先するか、協業先を増やして複数の小売事業者を束ねるか、卸供給や高圧事業に特化していくか、といった判断が必要になってくる。いずれにしても電力市場の大変革が進む中で重要な役割を担うことは間違いない。
新規参入組の中には電源を持っていなくても、需要家のチャネルが確実にあって、数十万件の顧客を獲得できる能力のある事業者がある。すでに先行した事業者は3年程度で当初想定した需要家数を確保したいと考えている。低圧分野の事業では採算性の考え方に大きく依存するものの、最低でも10万件、できれば20万〜30万件の顧客は確保したいところだ。
このほかにも地産地消をベースとして、地域に特化して電力の供給を開始する動きが全国各地で広がってきた。地方自治体を中心として、再生可能エネルギーを軸に小売事業の体制を構築する取り組みも始まっている。次回は新規参入組に絞って、電力の小売事業を成功させるために必要な戦略や求められる業務の内容について解説する。
連載第2回:「競争力の決め手は電源確保と顧客管理、提携戦略も重要」
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