再生可能エネルギーの出力抑制、九州本土で実施の可能性が高まる:自然エネルギー(3/3 ページ)
太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの導入量が拡大したことを理由に、九州電力は離島に続いて本土でも、太陽光や風力発電の出力抑制に備えるよう事業者に要請する方針だ。九州本土では夏の日没後19時台に「点灯ピーク」が発生して、供給力が需要に追いつかない可能性がある。
原子力を抑制すれば出力制御の回避も
九州本土で太陽光発電に対する出力制御が現実味を帯びてきたが、その必要性には疑問が残る。というのも、出力制御の根拠になっている接続可能量の算定方法に問題点があるからだ。
太陽光と風力発電の接続可能量は政府が決めた算定方法に基づいて、各電力会社が前年度の実績値をもとに算出している。その算定方法は各地域で1年間に最も需要が少なかった日の昼間を対象に、太陽光と風力の最大出力、原子力・水力・地熱の平均出力、火力の最低出力と揚水の最大出力を組み合わせて計算する(図9)。
ここで問題点が2つある。1点目は太陽光と風力発電の最大出力の計算方法だ。同じ九州本土でも場所によって天候にバラつきがあり、すべての発電設備が最大出力になることはあり得ない。それにもかかわらず最大出力の合計値をもとに、太陽光と風力発電の供給力を想定している。実際よりも過大に見積もることになる。
2点目の問題は原子力発電の供給力である。現時点で運転していない原子力発電設備を含めて、震災前の30年間の設備利用率(最大出力に対する平均出力の比率)で供給力を想定している。九州電力の場合には「玄海原子力発電所」と「川内原子力発電所」の6基が対象になり、合わせて439万kWにのぼる供給力を織り込んだ(図10)。5月の電力需要が最小になる時期には、昼間の需要の50%以上を原子力で供給する想定だ。
こうして原子力発電の供給力を過剰に積み上げて、それをもとに太陽光と風力の接続可能量を決定している。運転中の原子力発電所だけを対象に含める方法をとれば、太陽光と風力の接続可能量は大幅に増やせる。
九州電力は運転開始から40年を経過した玄海原子力発電所1号機の廃止を2015年3月に決定した。これに伴って原子力発電の供給力が少なくなるため、太陽光発電設備の接続可能量は32万kW増えて、849万kWに拡大できるはずだった(図11)。
ところが政府は新たに「30日等出力制御枠」と呼ぶ接続可能量を新たに規定して、九州本土の太陽光発電設備の接続可能量を従来の817万kWに据え置いた。同様に原子力発電設備1基の廃止を決めた中国電力の場合には、太陽光発電の接続可能量を102万kWも増やしている。
九州電力と中国電力の違いは、すでに太陽光発電の接続可能量を超えているかどうかの差である。いったん接続可能量を超えて一部の発電設備に指定ルールを適用してしまった九州本土では、もはや接続可能量を増やして指定ルールの対象になる発電設備を変更できない(図12)。原子力発電の供給力を過大に織り込んだ弊害と言える。
もとより原子力発電は出力を調整することがむずかしく、日中・夜間を問わず一定の出力で運転することが前提になっている。需要に合わせて供給力を調整する役割は火力発電が担う。原子力を稼働させなければ、日中の火力発電の出力を高めに維持して、夏の点灯ピークにも対応しやすくなる。九州電力が準備を始めた出力制御は、川内原子力発電所の運転を止めれば回避できる可能性が大きい。
関連記事
- 太陽光発電が増えた九州に新たな課題、夏の19時台に電力が厳しくなる
今年の夏も九州地方の電力は問題なく供給することができた。原子力発電所が運転していない状況でもピーク時の需給率は90%以下に収まったが、太陽光発電の増加によって新たな課題が明らかになった。昼間の電力は十分に足りても、夜間の19時台に需給率が95%を超える日が発生した。 - 太陽光発電の出力制御が頻繁に発生、種子島で早くも今年10回目
九州電力は4月29日に鹿児島県の種子島で、今年10回目になる太陽光発電の出力制御を実施した。島内の需要が小さくなる日に太陽光発電の供給力が過剰になることを回避するための措置だ。実際に出力制御が必要な状況は発生しているものの、需要と供給力の想定方法などに課題が残る。 - 再生可能エネルギーに逆風、原子力発電の電力が増える九州の未来
九州電力が川内原子力発電所の1号機を再稼働させて、8月14日から送電を開始する。9月上旬には最大89万kWの電力を供給する予定で、年内には2号機も再稼働する見通しだ。九州では需要の少ない春に供給力が過剰になり、発電設備の出力を抑制する可能性が高まるが、原子力は対象外である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.