水素エネルギーが港のCO2を減らす、国内最大の木質バイオマス発電所も稼働:エネルギー列島2016年版(14)神奈川(4/4 ページ)
神奈川県の港を中心に水素エネルギーを地産地消する動きが広がってきた。風力発電の電力からCO2フリーの水素を作って燃料電池フォークリフトに供給するプロジェクトが始まる。鉄道の駅でもCO2フリーの水素を製造する計画が進む。バイオマス発電や太陽光発電でも新たな取り組みが活発だ。
太陽光発電は建物の窓にも広がる
神奈川県では太平洋沿岸部を中心に日射量が多く、県が率先して太陽光発電を推進している。隣の東京都と同様に広い空き地が少ないため、公共施設の屋根を利用した太陽光発電に早くから取り組んできた。最近では設置場所の制限が少ない薄膜タイプの太陽電池を広めようとしている。
2014年度に開始した「薄膜太陽電池普及プロジェクト」を通じて、企業や学校に補助金を交付して導入事例を拡大中だ。2015年度には県内33カ所に薄膜太陽電池を設置した。薄膜太陽電池ならば建物の窓にも装着できる(図12)。窓に設置すると光を透過しながら遮熱する効果があるため、発電と同時に省エネに役立つ。
このほかにも太陽光発電設備を導入したユニークな場所がある。神奈川県のほぼ中央にあって、県内有数の水田地帯が広がる伊勢原市の農業用排水路だ。水田から流れてくる排水路の上に架台を組んで、200枚の太陽光パネルを設置した(図13)。
発電能力は50kW で2016年4月に稼働したところだ。年間の発電量は5万7000kWhを見込んでいて、一般家庭の16世帯分に相当する。固定価格買取制度で売電して、収入は水田に水を引き込む送水ポンプの電気代に割り当てる方針だ。東日本大震災後に電気代が高騰したことから、地元の農家が県に要望して太陽光発電設備を導入した。
導入にかかった費用は総額2600万円である。神奈川県が3分の2を負担して、伊勢原市と排水路を運営する土地改良区が6分の1ずつ分担した。2016年度も排水路の別の場所に太陽光パネルを設置して電気代の負担軽減に生かす予定だ。
一方で木質バイオマス発電所が稼働した湾岸の工業地帯では、大規模なメガソーラーが誕生している。バイオマス発電所を建設した昭和シェル石油が同業のコスモ石油と共同で2015年7月に運転を開始した。12万平方メートルに及ぶ広大な用地に、薄膜タイプの太陽光パネル4万7000枚が整然と並んでいる(図14)。
発電能力は7.5MWに達して、年間に900万kWhの電力を供給できる。一般家庭の2500世帯分に匹敵する電力になる。このメガソーラーを建設した場所にも以前は石油の備蓄基地があった。需要が減少する石油の供給源から、新たな再生可能エネルギーの電力源へ、CO2を削減する取り組みは続いていく。
2015年版(14)神奈川:「CO2フリーの水素を製造、太陽光とバイオマスで電力供給」
2014年版(14)神奈川:「水素とバイオマスで一歩先へ、化石燃料を使わない電力源を地域に広げる」
2013年版(14)神奈川:「太陽光発電が毎年2倍に増える、再エネ率20%へ小水力にも挑む」
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