小売電気事業者のチャネル戦略、対面・訪問・ネット販売も有効:電力自由化で勝者になるための条件(3)
電力を購入する需要家にどのような方法でアプローチするのか。電力市場に参入する小売電気事業者には、競争力のある販売チャネルを構築することが欠かせない。既存の事業で培った対面販売・訪問販売のほか、インターネットやコールセンターを使って効率的に顧客を獲得する事業者も増える。
連載第2回:「競争力の決め手は電源確保と顧客管理、提携戦略も重要」
新規に電力市場に参入する小売電気事業者にとって、顧客を獲得するためのチャネル戦略が重要なことは言うまでもない。従来から流通業などを通じて確立したチャネルを生かせば、既存の電力会社から契約を変更することは十分に可能になる。
電力市場のチャネル戦略を考える場合でも他の市場と同様に、消費者を対象にするB-to-Cモデルと、企業を対象にするB-to-Bモデルで分ける必要がある(図1)。まずB-to-Cモデルから、代表的なチャネル戦略を見ていこう。
1.店舗モデル
店舗を保有する流通事業者、賃貸住宅事業者、携帯電話会社などが採用するモデルである。対面販売の店舗をチャネルに使って、電力事業でも相当数の需要家を獲得することが想定できる。
2.訪問モデル
店舗モデルと同様に対面販売の強みを発揮できる。営業担当者が訪問することによって、需要家には親近感や安心感が生まれる。スイッチング(契約変更)を進めやすいモデルと言える。ただし電力の小売はクーリングオフの対象となるので、その点を考慮した仕組みを構築することが欠かせない。
代表的な事業者は都市ガス会社やプロパンガス事業者である。リフォーム事業者やデリバリー事業者も、既存のサービスで需要家を訪問する機会が多いため参入する余地はある。このほかにも中小の事務所や工場・商店をターゲットとした「低圧電力」の分野では、通信事業者や複合機メーカーなども独自のチャネルを生かして電力の小売モデルを展開することが想定される。
3.WEBモデル
入口がインターネットであるため、若い世代を中心にIT(情報技術)のリテラシーが高い需要家を獲得しやすいモデルである。ニッチなサービスや電力以外にも魅力のあるサービスを提供できれば、需要家を集めることはむずかしくないだろう。このモデルで重要な点はチャネルの導線であり、ターゲットを想定しながら十分に検討して組み立てる必要がある。
4.複合モデル
マーケティング・コストを最小限に抑えるために、WEBをベースにしてコールセンターのインバウンド/アウトバウンド機能を駆使するモデルがある。このモデルの場合、コールセンターのコストをいかに抑制するかが勝負となる。例えばクラウドソーシングのサービスをアウトバウンドで利用する事業者が出てくる可能性もある。
直販で攻めるか、取次店・代理店を生かすか
もう一方の企業を対象にしたB-to-Bモデルでも、現状では対面販売が基本になる。加えて今後は新しいチャネルを使った販売モデルが想定できる。家庭を中心とする低圧分野の自由化に触発されて、高圧の需要家でも電力の購入先を改めて選択する動きが見られる。そうした企業を対象に、すでにB-to-Bの信頼関係を構築できている事業者が電力市場にも参入した場合、契約変更のハードルは低くなる。
ただしB-to-Cモデルの場合と同様に、電力の小売事業を直販で実施するのか、取次店または代理店方式を採用するのかを判断することが重要である。代理店や取次店になりうる取引先を含めて、自社のチャネルの現状を十分に分析したうえで、需要家にコンタクトをとりやすいチャネルを選択するのが望ましい(図2)。
提供するサービスに独自性があれば、WEBやコールセンターでも集客が可能だ。そうしたサービス戦略を含めて事業全体を組み立てることが成功の大きなカギを握る。次回はサービス戦略について解説しよう。
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