マイナス30度で動く全固体リチウムオン電池、実用へ:蓄電・発電機器
オハラはマイナス30度でも駆動できる全固体リチウムイオン電池の開発に成功した。一般的な小型電子機器で使用される液式リチウムイオン電池は低温環境での駆動が難しい。オハラはこうした電解液を用いた既存電池に置き換わるものとして、2019年に電池部材としての採用を目指す計画だ。
オハラは2016年8月24日、酸化物系材料を用いた全固体リチウムイオン電池で、マイナス30度の低温下においても駆動する電池の試作・実証に成功したと発表した。積層シートの一括焼結製法を用いることで実現した。
一般に全固体電池は界面抵抗が大きく、中でも酸化物系の無機固体電解質を用いたものは、低温下の特性が低下するという課題がある。そこでオハラは電池を積層構造化することで、緻密で効率的な構造を持つ全固体電池を作成。固体電解質にオハラの酸化物系固体電解質「LICGC」、正極と負極に酸化物系材料を用い、粉末シートを積み重ねて焼結した。これにより、一般的な小型電子機器向けに使用される液式リチウムイオン電池では駆動が難しいマイナス30度という低温下での駆動に成功したという(図1)。
さらにこの電池は電解液や一部の全固体電池で使用される金属リチウムを使用していないため、200度という高温環境でも燃えることがなく、大きな変質劣化も起きないという。また、大気中で安定している酸化物系材料で構成しているため、硫化物系の無機固体電解質を使用した全固体電池と比較して、安価に製造できるメリットもあるとする。
オハラでは今後、酸化物系固体電解質であるLICGCの固体電池への採用を進める計画だ。今回試作に成功した全固体リチウムイオン電池は、現在小型電子機器に搭載されている電解液を用いたリチウムイオン電池と置き換わるものとして開発を進めていく。
今後、2017年にかけてこれら用途における課題の抽出および対策を進め、2019年に電池部材としての採用を目指す計画だ。将来は、需要の拡大が見込まれる住宅などの定置型蓄電池システムや電気自動車向け電池などでの採用も視野に入れ、展開を進めるとしている。
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