水素製造と水素発電を2020年代の前半に、「福島新エネ社会構想」が動き出す:自然エネルギー(2/2 ページ)
福島県を再生可能エネルギーと水素エネルギーのモデル地域として発展させる「福島新エネ社会構想」の具体案がまとまった。2020年代を当面の目標に設定して、再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を大量に製造するプロジェクトをはじめ、石炭ガスと水素を混焼発電する実証にも取り組む。
1万kW級の水素製造設備を2020年までに運転開始
福島新エネ社会構想では第2のテーマとして、再生可能エネルギーから水素エネルギーを「作り」「貯め・運び」「使う」ことを可能にする未来の社会モデルを構築する。その中で特に注目すべきプロジェクトが2つある。1つは再生可能エネルギーからCO2(二酸化炭素)フリーの水素を製造する実証設備を建設して、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに運転を開始する(図4)。
水素製造設備の規模は再生可能エネルギーによる電力に換算して1万kW(キロワット)級を想定している。合わせて水素を輸送・貯蔵する技術の開発や、風力・太陽光など天候によって出力が変動する電力を水素に転換する実証事業にも取り組む(図5)。水素を効率的に輸送・貯蔵するサプライチェーンを2020年までに構築するために、2017年度には55億円の予算を投入する方針だ。
もう1つのプロジェクトは次世代の火力発電技術である「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」と水素を組み合わせて、水素エネルギーの利用拡大を推進する。石炭ガスと水素を混焼して発電する実証事業に2020年代の前半から取り組む予定だ。
すでに東京電力と常磐共同火力(東京電力・東北電力の共同出資会社)が福島県内の2カ所でIGCCの建設計画を進めている(図6)。出力54万kWのIGCCを2020〜2021年に運転開始する予定で、この設備を使って水素混焼発電を実施する見通しだ。2016年度内に経済産業省と電力会社が実施に向けた検討に着手する。
第3のテーマであるスマートコミュニティの構築に関しては太平洋沿岸の4つの自治体(新地町、相馬市、浪江町、楢葉町)で実施することが決まっている。2016〜2020年度の5年間をかけて、再生可能エネルギーやガスコージェネレーション(熱電併給)による地産地消型のエネルギーシステムを構築していく(図7)。2017年度は55億円の予算を配分する方針だ。
福島県では復興の大きな柱として「再生可能エネルギー先駆けの地」を目指している。2040年をめどに県内のエネルギー需要の100%以上を再生可能エネルギーから生み出して、沿岸部を中心に新たな産業基盤を創出する計画を推進中だ。福島新エネ社会構想でも2040年度を最終目標に3つのテーマを推進していく。
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