電気料金に影響する託送料金の見直し、電力の地産地消を促す体系に:動き出す電力システム改革(69)(2/2 ページ)
2020年度に実施する発送電分離に向けて、送配電ネットワークの費用負担の見直しが始まった。新たに発電事業者にも負担を求める方向だが、送配電ネットワークの負荷が小さい分散型の発電設備などは負担率を低く抑える。懸念点の1つは原子力発電で、送配電の料金を上昇させる可能性がある。
発電所の立地で託送料金も変わる
発電事業者から送配電ネットワークの費用を回収するために、託送料金の体系をどう設計するかも重要な課題になる。1つには発電所の立地を考慮すべきかどうか、もう1つは課金の単位を設備容量だけで決めるのか利用量も考慮するのか、といった点がある(図5)。
最も簡単なのは立地を考慮しないで、設備容量の大きさ(キロワット=kW単位)で決める方法だが、実態を反映しない料金体系になってしまう懸念がある。コストを適正に分担する託送料金の決め方は、発電所の立地を考慮したうえで、設備容量と利用量(キロワット時=kWh単位)の両方をもとに単価を設定する方法である。
特に今後は再生可能エネルギーによる分散型の発電設備が増えて、電力を地産地消する取り組みが全国各地に広がっていく。そうすると送配電ネットワークに大きな負担をかけずに、発電所から需要家まで電力を供給することが可能になる。さらに蓄電池を使って需要と供給のバランスを調整しながら、送配電ネットワークの負荷を軽減する取り組みも広がっていく(図6)。
こうした分散型による地産地消のシステムを普及させるためにも、発電所の立地を考慮した費用負担の仕組みが求められる。立地を考慮した託送料金の新制度を導入するにあたって、対象になる地理的な範囲も決める必要がある(図7)。地産地消を推進するためには、配電用の変電所と混雑エリアを組み合わせる方法が最適だろう。需要の大きいエリアで分散型の発電設備を増やす効果が期待できる。
今後の託送料金の見直しの中で、原子力発電の扱いも議論を呼びそうだ。託送料金を課す対象に原子力発電所を含めるかどうかとは別に、政府内では原子力発電所の廃炉の費用を託送料金で回収する検討が以前から進められている。
現在の送配電ネットワークの原価には、原子力発電に関連するコストは一切含まれていない(図8)。もし廃炉の費用を原価に加えた場合には、託送料金の水準が大幅に上がって、電気料金を上昇させる結果になる。廃炉の費用は送配電ネットワークのコストと直接関係がないものの、長期間にわたって幅広く徴収する手段として託送料金に含める方法を想定している。
当然ながら国民の理解を得るのはむずかしい話だ。とはいえ発送電分離後の原子力発電のコストは電力会社の競争力を大きく左右するだけに、再稼働と合わせて政府と電力会社が強引に推し進める可能性は十分にある。この点でも市場の健全な競争を促進する立場の電力・ガス取引監視等委員会の真価が問われる。
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