ポケットで水素を運べるプラスチック、新しい水素貯蔵材料へ期待:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
早稲田大学理工学術院の研究グループは、水素をためることができる「水素運搬プラスチック」を開発したと発表した。軽量かつ加工も容易で、水素をためた状態でも手で触れられる特徴がある。身近な場所での水素貯蔵を可能にする新材料として期待できるという。
手で触ってもOK
ケトンポリマーに電圧をかけて水素を固定するプロセスは、マイナス1.5Vの電圧でよく、さらに1時間程度で済むとしている。80度の加温によって水素を取り出すと、アルコールポリマーはケトンポリマーに戻る。1グラムのケントポリマーを利用することで、約30ミリリットルの水素ガスを取り出すことができるという。
また、こうした水素と固定と発生のプロセスは、約50回のサイクル試験を行った後でも性能減少はわずかだったとしている。アルコール、ケトンポリマーはともに安定で、室温・大気下で長期保存することもできる。約1カ月保存しても、性能劣化はなかったとする。
研究グループは今回の成果のメリットとして以下の点を挙げている。まず、ケントポリマーを利用しているため、毒性・揮発性がなく、防爆対策が不要である点だ。さらにこのケントポリマーは軽量かつ成形性にも優れ、運搬や保存も容易である。水から室温での電解により水素を固定するため、水素ガスを原料とせず、高温高圧環境を必要としないというメリットも挙げた。
プラスチックとして水素をためている状態でも手で触ることができ、例えばポケットに入れて持ち運ぶことも可能だという。身近な場所での水素貯蔵材料などとしての展開が期待できるが、今後の課題として残るのが質量水素密度が低い点である。現時点の質量水素密度は1.1wt%程度。研究グループではこの課題の改善に向け、よりコンパクトな分子構造のアルコールやケントポリマーを検討していく方針だ。
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