急浮上した原子力事業の分離案、東京電力の改革の道は険しく:電力供給サービス(2/2 ページ)
政府が委員会を設置して検討を開始した「東電改革」の中で、立て直しを迫られる原子力事業を別会社に分離する案が出てきた。巨額の賠償・廃炉・除染費を捻出しながら、それを上回る利益を稼ぎ出して脱・国有化を図るための方策だ。将来は廃炉ビジネスの拡大も視野に入る。
廃炉費用が年間に数千億円も増加
経済産業省は福島第一原子力発電所の事故対応費用を捻出するためのシナリオを4通り挙げている。国の支配下に置く「現状維持」や「長期公的管理」のほかに、会社更生法などによる「法的整理」も選択肢に含まれている。その中で自立再建を目指す「東電改革」を最優先に脱・国有化を図ることが現時点の方向性だ(図4)。
とはいえ改革の道筋は険しい。現在のところ賠償・廃炉・除染にかかる費用は年間に約4000億円で、毎年度に稼ぐ利益でカバーできる水準にある。ところが今後は事故で原子炉から溶け落ちた燃料(デブリ)の取り出しが必要になり、年間に数千億円レベルの廃炉費用を上積みしなくてはならない(図5)。利益水準を倍増させる必要があるが、見通しは立っていない。
収益の改善につながる原子力発電所の再稼働も当面はむずかしい。東京電力の原子力発電所で再稼働の可能性があるのは「福島第二原子力発電所」と「柏崎刈羽原子力発電所」の2カ所だ(図6)。このうち柏崎刈羽の6号機と7号機は新規制基準の適合性審査の途上にあるが、立地自治体の新潟県が再稼働に反対する姿勢を明確に示している。
一方では関西電力をはじめ加圧水型の原子力発電所を保有する電力会社4社(北海道・関西・四国・九州)が10月19日に技術協力の協定を締結して、安全性の向上に共同で取り組んでいく計画を明らかにした。将来は廃炉に関しても連携する可能性がある。
もはや1社で原子力事業を長期に運営することは困難になってきた。東京電力の原子力事業を分離するのは必然とも言えるが、連携できる可能性があるのは同じ沸騰水型の原子炉を採用している東北電力・中部電力・北陸電力・日本原子力発電に限られる。想定するシナリオどおりに改革を進めるのは至難の業である。
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