ラン藻を使うバイオ燃料生産を効率化、凍りにくい燃料も実現:自然エネルギー(2/2 ページ)
ラン藻は光合成により軽油燃料に相当する炭化水素を生産することが知られている。東京大学は炭化水素生産に関わる酵素のアミノ酸配列を変えるとその生産効率化を向上できることを発見した。再生可能エネルギーであるバイオ燃料の生産効率化や、凍りにくい燃料の生産に応用できる発見だという。
生産効率を向上、凍らない燃料の実現も
その結果、酵素AARのアミノ酸配列が異なると、炭化水素が生産される効率(活性)も大きく異なり、生産効率の高い酵素AARと、生産効率の低い酵素AARがあることが明らかになった。また、効率の低い酵素AARのアミノ酸配列を人工的に改変して、生産効率を約12倍向上させることにも成功した。このときにアミノ酸配列を改変した部位は、酵素AARのはたらきを決める上で重要な部位であると考えられる。このように酵素AARのアミノ酸配列を変えると、炭化水素の生産を効率化できることを発見した。
さらに、酵素AARのアミノ酸配列が異なると生産される炭化水素の種類が異なることも明らかになった。海洋性のラン藻がもつ酵素AARでは、主に短い炭化水素(炭素数15)が生産されたのに対し、淡水性のラン藻がもつ酵素AARでは、主に長い炭化水素(炭素数17)が生産されたという。つまりラン藻の生育環境に応じて、酵素AARが利用する基質(原料)が異なることが示唆された。このように酵素AARのアミノ酸配列を変えると、生産される炭化水素の長さも調節できることが分かった。
研究グループはこの成果について、「今回発見した生産効率の高い酵素AARを用いることでラン藻などを用いたバイオ燃料生産の効率化が期待される。炭化水素の長さを短くすると凝固点が下がり、凍りにくくなるため、AARのアミノ酸配列を改変し、生産される炭化水素をさらに短くすることで、凍りにくい寒冷地用の軽油燃料を生産できる期待もある」としている。
なお、今回の研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究さきがけ、文部科学省と日本学術振興会の科学研究費補助金、ホクト生物科学振興財団助成、矢崎科学技術振興記念財団研究助成、ゼネラル石油研究奨励財団研究奨励助成の支援を受けて実施した。成果の詳細はオープンアクセス誌「バイオテクノロジー・フォー・バイオフューエルズ」のオンライン版に2016年11月1日付で掲載された。
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