東日本にCO2フリーの水素が広がる、3地域で技術開発を加速:自然エネルギー(2/2 ページ)
太陽光や風力など再生可能エネルギーの電力を使ってCO2フリーの水素を製造する取り組みが活発になってきた。山梨県ではメガソーラーの電力から水素を製造・輸送するシステムを開発して2018年度から実証に入る予定だ。北海道や福島県でもCO2フリー水素の技術開発プロジェクトが始まる。
福島県では1万kW級の水素製造設備
山梨県や北海道で始まったCO2フリー水素の活用プロジェクトは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2014〜2020年度に実施する技術開発事業の一環である。2016年度には6つのプロジェクトを対象に31億円の国家予算を投入する(図5)。この中には福島県で計画中の大規模な水素製造事業も含まれている。
政府は福島県の復興を目指して2016年9月に「福島新エネ社会構想」を策定した。その中で目玉のプロジェクトが、世界最大の1万kW(キロワット)級の水素製造設備である(図6)。風力発電などで作った電力からCO2フリーの水素を製造する大規模な設備を、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに稼働させる計画だ。
このプロジェクトは東芝・東北電力・岩谷産業の3社が共同で推進する。水素の製造・貯蔵・発電装置を中核に、地域の電力系統を制御するシステムや水素の需給予測システムも開発する予定だ(図7)。製造した水素は東北エリアのほかに東京を中心とする首都圏にも供給することを想定している。計画が順調に進めば、東京オリンピック・パラリンピックで導入する燃料電池や燃料電池バスに福島県産の水素を利用できる。
すでに福島県内では再生可能エネルギーの電力から水素エネルギーを製造・供給する研究開発プロジェクトが始まっている。国の産業技術総合研究所が運営する「福島再生可能エネルギー研究所(FREA)」の中に実証設備を構築して評価中だ(図8)。この実証の成果を1万kW級の水素製造設備や水素輸送・貯蔵システムの開発に生かす。
東日本の3地域(北海道・東北・東京電力エリア)は西日本と比べて地域間の電力融通に制約が多い。再生可能エネルギーが豊富にある北海道と東北、さらに東京電力エリアに含まれる山梨県を加えて、今後の再生可能エネルギーの拡大には水素エネルギーの活用が重要な役割を果たす。2020年代には再生可能エネルギーとCO2フリー水素を組み合わせた地球温暖化対策が東日本を中心に全国各地へ広がっていく見通しだ。
関連記事
- 水素+再生可能エネルギーで電力と燃料を作る、CO2削減の切り札に
火力発電に伴って大量に発生するCO2の削減が世界全体で緊急課題になっている。CO2を排出しない再生可能エネルギーに加えて水素を活用する取り組みが日本の各地で始まった。下水処理で発生するバイオガスや太陽光・風力・小水力発電から水素を製造して、燃料電池で電力と熱を作り出す。 - 再生可能エネルギーの電力を余らせない、風力・小水力・バイオマスで水素を作る
北海道で再生可能エネルギーから水素を製造する試みが広がってきた。家畜のふん尿で作ったバイオガスを利用するプロジェクトのほか、風力や小水力の電力でも水素を作ってエネルギー源に生かす。道内で余った電力は水素に転換して首都圏などに供給する。太陽光や地熱発電の取り組みも活発だ。 - 水素製造と水素発電を2020年代の前半に、「福島新エネ社会構想」が動き出す
福島県を再生可能エネルギーと水素エネルギーのモデル地域として発展させる「福島新エネ社会構想」の具体案がまとまった。2020年代を当面の目標に設定して、再生可能エネルギーからCO2フリーの水素を大量に製造するプロジェクトをはじめ、石炭ガスと水素を混焼発電する実証にも取り組む。 - 農山村に水力発電を展開、太陽光と2本柱で自給率70%を目指す
山梨県では豊富な水量と日射量を生かして水力発電と太陽光発電の電力が増えている。2030年に電力の自給率を70%まで高める計画で、小水力発電の導入にも積極的に取り組む。超電導方式の蓄電システムや純水素型の燃料電池を再生可能エネルギーと組み合わせて電力の地産地消を拡大していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.