水素の貯蔵・輸送技術が進展、実用化に残る課題はコストダウン:自然エネルギー(2/2 ページ)
千代田化工建設が水素を液化して貯蔵・輸送する技術の開発を進めている。気体の水素を有機化合物と反応させて液化した後に、再び気体の水素を抽出する方法だ。実証プラントを使って100%に近い変換効率を達成した。大規模な設備の実用化に向けて、改良によるコストダウンの段階に入った。
水素の貯蔵・輸送率は98%以上に
千代田化工建設は2013年4月に実証プラントの運転を開始して、2014年11月まで合計で約1万時間に及ぶ稼働を通じて実証データを収集した。その結果、水素とトルエンからMCHに変換できる効率をはじめ、各プロセスで98〜99%以上の効率を達成することができた(図4)。全体的な水素の貯蔵・輸送率は98%以上になり、損失の少ない方法で水素の貯蔵・輸送が可能なことを確認した。
実証プラントの反応装置の数を増やせば、水素の処理能力を増強できる。大量の水素を貯蔵・輸送できる大規模なプラントの実用化が目前に迫っている。SPERA水素システムの普及に向けて、現在はプラントの建設・運転コストを低減するための改良を実施中だ。
千代田化工建設ではSPERA水素システムを使って、海外のガス田などで発生する大量の水素を日本まで輸送することを想定している。低コストで水素を液化して貯蔵・輸送するためには、液化や気化に必要な熱・電力などのエネルギー消費量を抑えることも欠かせない。
東南アジアから日本まで水素を輸送して利用する場合のエネルギー効率を試算したところ、液化・気化に必要なエネルギーと輸送用のタンカーの燃料、そのほかの損失分を加えても、最終的に国内で水素をエネルギーとして利用できる効率は約60%に達する見通しだ。海外の安価な水素を大量に輸入して利用するうえで十分なエネルギー効率になる。
このほかに千代田化工建設はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発プロジェクトの一環で、SPERA水素システムを使って再生可能エネルギーを貯蔵・輸送する研究開発にも取り組んでいる。横浜国立大学と共同で2015〜2018年度の4年間かけて実施する計画だ。
天候によって変動する風力発電の電力から水素を製造して、その水素を貯蔵・輸送して燃料電池で利用できるシステムを実証する(図5)。水素の貯蔵・輸送には横浜市にあるSPERA水素システムの実証プラントを使う。
再生可能エネルギーによる電力から作った水素はCO2(二酸化炭素)の排出を伴わないため、地球温暖化対策としても有効だ。特に太陽光や風力発電のように天候で出力が変動する再生可能エネルギーと組み合わせると、電力の安定供給とCO2排出量の抑制を両立できる。
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