理論限界を突破、シリコン利用の太陽電池で30.2%:太陽光(2/3 ページ)
量産可能な太陽電池で変換効率30%の壁を突破したい。ドイツのフラウンホーファー研究所はこの目的に一歩近づいた。シリコン基板と他の材料を組み合わせたこと、組み合わせる際に、マイクロエレクトロニクス分野で実績のあるウエハー接合装置を利用したことが特徴だ。高い変換効率と低コストを両立させる技術開発だといえる。
半導体を組み合わせて高効率化
シリコン太陽電池の理論効率を見ると、30%を超える変換効率は実現できない。この限界を打ち破る方法が、2種類以上の半導体を垂直に積み重ねた多接合太陽電池だ。
バンドギャップの大きな半導体を上面(トップ層)に、小さい半導体を下面(ボトム層)に置くことで、30%を超える変換効率を実現できる*2)。
半導体の性質や量産コストを考慮すると、シリコンをボトム層に置き、トップ層によりバンドギャップの大きな半導体を重ねる戦略が魅力的だ。今回の成果もこの方針にそっている。
試作した太陽電池は3種類の半導体が垂直に積み重なった構造を採る。トップ層はガリウムインジウムリン(GaInP)、ミドル層はガリウムヒ素、ボトム層がシリコンだ。
同研究所によれば、トップ層が波長300〜670ナノメートル(nm)の太陽光を吸収する。波長の短い近紫外線から黄色の光に相当する。ミドル層は、波長500〜890nmの光を吸収。これは青緑から近赤外線だ。ボトム層は波長650〜1180nmの光を吸収する。赤から赤外線までを担う。
*2) このときトップ層を薄くし、ボトム層に至る光の量を増やす必要がある。ガリウムヒ素は膜厚が薄くても効率良く(波長の短い)光を吸収する性質があるため、トップ層に向いている。
半導体の「寸法」が合わない
フラウンホーファー研究所によれば、今回の成果はオーストリアの企業であるEV Groupと共同で得たものだ。EV Groupが得意とするダイレクトウエハーボンディングプロセスを使用したことで実現できたとする(図3)。
このようなプロセス技術が必要になった理由はこうだ。
多接合太陽電池で、異なる半導体層を組み合わせる際、手法は大きく2つに分かれる。1つは積層。半導体を形作る原子や分子を直接重ねていく方法だ。もう1つはメカニカルスタック。半導体層同士を物理的に重ねる方法だ。
積層を利用すると、一気に複数の層を形成でき、太陽電池を薄く作り上げることもたやすい。ところが、半導体の組み合わせによっては、層の品質が低下してしまう*3)。万能な手法ではない。
メカニカルスタックはどのような半導体の組み合わせも可能だ。ただし物理的に重ね合わせるため、接触不良が起こる可能性が高くなり、太陽電池セルが厚くなる。
*3) 野球ボールを規則正しく平面に敷き詰めた状態で、さらに野球ボールを整然と重ねていくことはたやすい(格子定数が一致)。ところがピンポン球を上に重ねていこうとすると、平面が崩れてしまう(格子定数が不一致)。半導体の積層でも同じことが起きる。平面の層構造が乱れると、多結晶構造となり、変換効率が下がってしまう。
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