世界初CO2を100%回収できる火力発電、米国で2017年に実証運転:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
米国テキサス州で建設中の「超臨界CO2サイクル火力発電システム」の実証運転が2017年に始まる。東芝と米国の3社が共同で開発を進めているシステムで、発電時に排出するCO2を循環させて高効率に発電できる世界初の技術を実装する。東芝は中核の発電機の製造を完了して米国に出荷した。
超臨界のCO2は気体と液体の中間
CO2は温度が31℃以上、圧力が74気圧(7.4メガパスカル)以上になると、気体と液体の中間的な性質を示す超臨界と呼ぶ状態になる。超臨界CO2サイクル火力発電システムでは、30メガパスカルの高圧の状態でCO2を回収できる。
超臨界状態のCO2は温度と圧力を変化させると、気体のような拡散性と液体のような溶解性を発揮する。拡散性によって燃料のガスと一緒に燃焼させることや、溶解性を生かして他の物質に吸着して回収することも可能だ。
日本政府は火力発電に伴うCO2排出量を削減するために、次世代の火力発電技術の開発促進に力を入れている。2030年をめどに石炭火力で約3割、ガス火力で約2割の削減が可能な発電技術を実用化する計画だ(図4)。
図4 次世代の火力発電によるCO2削減効果。USC:超々臨界圧、IGCC:石炭ガス化複合発電。IGFC:石炭ガス化燃料電池複合発電、GTCC:ガスタービン複合発電、GTFC:ガスタービン燃料電池複合発電。出典:資源エネルギー庁
それでも大量のCO2を排出することから、CO2を分離・回収する技術の開発を並行して進めている。最大の課題は分離・回収にかかるコストを低減させることで、2030年までに現在と比べて4分の1程度まで引き下げることを目指している(図5)。
2030年の時点で実用化できる最先端の火力発電技術とCO2分離・回収技術を組み合わせた場合に、100万キロワット級の発電設備でCO2分離・回収コストは年間に50億円程度になる見通しだ。発電事業者にとっては次世代の火力発電によって燃料費を削減できるメリットがある一方で、CO2を分離・回収するコストは小さくない。
そうなるとCO2を100%回収できる超臨界CO2サイクル火力発電システムは有望だ。政府が策定した次世代の火力発電のロードマップには、今のところ超臨界CO2サイクル火力発電は盛り込まれていない(図6)。テキサス州の実証運転の結果によっては、2030年に向けた有力な火力発電技術の1つになる。
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