2040年のエネルギー、日本はどうなる:法制度・規制(3/3 ページ)
2040年のエネルギー動向をIEA(国際エネルギー機関)が予測した。前提となるのは2016年11月4日に発効したばかりのパリ協定だ。IEAが同11月16日に公開した「World Energy Outlook 2016」には、「石炭の時代」から、「天然ガス・風力・太陽光の時代」への転換が描かれている。だが、日本の政策目標はIEAの描く明るい未来からずれている。
原子力発電が足りない日本
WEO 2016を離れて、パリ協定に向かう日本の状況を振り返ってみよう。日本はパリ協定を批准済みであり、既に削減目標を明らかにしている。2030年度までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を26%削減すること(2013年度比)。2050年度には80%削減する(同)というものだ。
このために現在の電源構成を変更する方針を明らかにしている。実はここに幾つかの課題がある。
第一に日本が計画する2030年の電源構成で、石炭火力の比率が26%程度と高いこと。石炭火力は火力発電のうち、発電コストが最も低いため、2014年度の実績値である31%から5ポイントしか減っていない。二酸化炭素排出量が低くなるよう、技術開発が続いている一方で、新設計画がある。これでは二酸化炭素の排出量削減が減速してしまう。
図3 日本政府による2030年の電源構成の予測 電力需要量は2013年の実績値9666億kWhが平均年1.7%の経済成長によって増加。これを省エネによって抑えることで、2030年時点では9808億kWhとなる。発電側は送配電ロスを見込んで1兆650億kWhを確保。内訳を中央と右側の棒グラフに示した。出典:経済産業省(2015年7月「長期エネルギー需給見通し)
第二に原子力だ。原子力発電が「足りない」。現在稼働可能な原子炉を全て動かしたとしても、図3にある20〜22%程度には達しない。日本の原子力設備は古くなっており、40年間という運用ルールを曲げ続けたとしても、さほど電源比率は高まらない。
第三に再生可能エネルギーの導入目標が低すぎること。石炭を削減するにはそれだけ他の電力源を開発するしかない。原子力をフル稼働しても目標に達しないのであれば、再生可能エネルギーの導入目標である22〜24%程度を例えば2倍近くにするなど、かなり引き上げる必要がある。
電源以外の対策も不足
電源構成以外にも課題がある。IEAのBirol氏の発言にある通り、産業や建築、輸送分野で再生可能エネルギーの導入目標を示し、実行し続ける必要がある。実は電力以外の分野の方がエネルギー消費規模は大きい。電源構成の「失点」をカバーできる可能性がここに残っている形だ
経済産業省は2016年4月に「エネルギー革新戦略」を発表済みだ。全産業への産業トップランナー制度の拡大や中小企業・住宅・運輸における省エネ強化、新分野の技術開発、省エネ政策のパラダイムシフト、再エネの拡大などの方針を打ち出している。
だが、新戦略は2015年7月に定めた長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)の実現を目指したもの。再生可能エネルギーの導入目標は増えていない。WEO 2016の指摘を反映し、パリ協定を実行するには、さらに一歩、再生可能エネルギーに踏み込む必要があるだろう。
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