リチウムイオン電池寿命を12倍に、正極加工に新手法:蓄電・発電機器
安永はリチウムイオン電池の寿命を大幅に向上する技術を開発した。正極に微細な加工を施すことで、活物質の剥離を抑制力を高めるというもので、充放電サイクル試験では同社製品比で寿命を約12倍にまで向上させられたという。
エンジン部品や工作機械、電池製造などを手掛ける安永は2016年11月22日、リチウムイオン電池の正極板製造に独自技術を導入し、電池寿命を同社の従来製品比で12倍以上に向上させることに成功したと発表した。微細加工技術を用い、正極板の集電体と活物質の結合力を改良することで実現した。
電池反応の中心的役割を担い、電子を送り出し受け取る酸化・還元反応を行う活物質。この活物質と集電体(電極)は、一般にバインダーなどの結着材の力で面結合している。しかセル製作時の曲げ応力や、充放電による活物質の膨張収縮などによって徐々に剥離していく。そしてこの剥離が電池の寿命に大きく影響する。
そこで安永はこの活物質と集電体の結合力向上に取り組んだ。独自の微細金型形成技術を用い集電体に微細な特殊加工を施し、電極表面に規則正しい幾何学模様の微細溝を形成。これにより電極表面積が拡大し、さらに活物質層に対してのアンカー効果で剥離を抑制することに成功した。さらに集電体への微細加工時に形成される貫通穴が、両面からの活物質同士の結合による剥離耐性の向上と、電解液の偏在防止という相乗効果を生むことも分かった(図1)。
次にこの正電極を用いた試作セルで、第三者による充放電サイクルの耐久試験評価を行った。初期容量から70%に減る時点までを寿命とする。すると従来品は5000サイクルで容量が70%にまで減少したのに対し、開発した正電極を用いたセルでは6万サイクルを必要とした。つまり、寿命が約12倍に向上したことになる。なお、試作したセルは500mAh(ミリアンペアアワー)のラミネートセルで、正電極材料にはリン酸鉄リチウムを、負極は被覆天然黒鉛電極を使用している(図2)。
同社によれば今回の微細加工による集電体と活物質の剥離抑制技術は、特に導電性の低いリン酸鉄リチウムやチタン酸リチウムなどに対し、抵抗低減効果による高速充放電性能の向上に有効だという。今後はリチウムイオン電池を長寿命化できるメリットを生かし同技術を電気自動車(EV)やモバイル機器など、さまざまなアプリケーション向けに展開していく方針だ。
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