太陽光・風力発電の接続可能量、原子力1基の廃炉を決めた四国だけ増加:自然エネルギー(2/2 ページ)
全国7つの地域では送配電ネットワークに接続できる太陽光発電と風力発電に条件がつく。地域ごとの接続可能量を超えると、電力会社は発電設備の出力を無制限に制御できる。毎年度に実施する見直しの結果、四国の風力発電だけ7万kW増える。原子力を優先する国の方針が接続可能量を抑えている。
九州では需要の半分近くを原子力で供給
ここで1つ大きな問題が、原子力発電の供給力の想定にある。運転しているかどうかにかかわらず、廃炉の対象になっていない原子力発電設備をすべて供給力に含めている。四国電力が原子力発電設備1基の廃炉を決めたことで風力発電の接続可能量が増えたのは、まさにこれが理由である。
原子力発電の想定規模が最大の九州電力では、再稼働を開始した「川内原子力発電所」の2基(現在1基は定期点検中)に加えて、再稼働を目指す「玄海原子力発電所」の3基を供給力に織り込んでいる(図4)。しかも設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を83.7%の高い水準に設定して合計5基が稼働する前提だ。
1年のうちでゴールデンウイークを除いて昼間の需要が最低になる4月下旬の状況を考えると、九州エリアで供給する電力のうち半分近くを原子力発電でまかなうことになる。もし1基でも運転を停止してしまったら、供給力が需要に追いつかない事態が十分に想定できる。それでも政府と九州電力は太陽光・風力発電を抑制して原子力発電に依存する方針を貫く。
その状況を詳しく見てみよう。九州電力が算定した結果によると、2015年度に昼間の需要が最低になった4月26日は12時に825万kW(キロワット)の需要があった(図5)。この需要に対して供給力は原子力発電5基で393万kWを見込み、さらに需給バランスを調整するために必要な火力発電の最低出力86万kWを確保することを想定している。
一方で再生可能エネルギーは太陽光発電で681万kWをはじめ、合計すると需要とほぼ同等の814万kWを供給できる見込みだ。しかし余剰分を揚水発電で吸収しても、太陽光発電を244万kWも抑制しなくてはならない。せっかく再生可能エネルギーで電力を作れるにもかかわらず、太陽光発電のうち3分の1を出力制御の対象に加えて削減することになる。
九州電力の試算によると、30日等出力制御枠で設定した接続可能量817万kWから200万kWの発電設備が超過した場合には、年間で423時間の出力制御が必要になる(図6)。出力制御率(地域全体で発電可能な電力量に対する出力制御量の割合)は9.7%だ。接続可能量を500万kW超過すると1027時間に拡大する。他の地域では、もっと厳しい状況も想定している。
とはいえ、あくまで各地域の原子力発電設備がすべて稼働した場合だ。現在の状況から考えると非現実的な見通しと言える。これまでも九州の離島で出力制御を実施したケースがあるが、本土では1度も実施していない。かりに出力制御を実施することになっても、年間に30日を超える可能性は小さく、無制限の出力制御を恐れる必要はない。
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