電力会社が抱える電源を市場に、2017年度から販売量の10%めど:動き出す電力システム改革(76)(2/2 ページ)
電力システム改革で重要なテーマの1つが卸電力取引の活性化だ。市場を通じて安い電力の売買が拡大すれば、事業者間の競争が活発になって電気料金の低下につながる。現状では電力会社が大半の電源を抱えていて市場の取引量は少ない。電力会社に一定量を供出させる新たな対策の検討が進む。
電力会社に「グロスビディング」を促す
政府は事態を改善するため、「グロスビディング(gross bidding)」を促進する考えだ。グロスビディングは電力会社が卸電力取引所に供出する発電量や入札量を事前に宣言して実行することを指す。これを自主的な取り組みにとどめるのか、それとも新たな制度として義務づけるのかによって、実効性は大きく変わってくる。
現時点では自主的な取り組みの1つに位置づける方針で、電力会社からヒアリングした実行計画を2016年11月30日の委員会で公表した。各社とも2017年4月を目標に売り入札量に対するグロスビディングを開始して、徐々に入札量を増やしていく方向だ(図5)。当面は販売電力量の10%程度を入札に出したうえで、2018〜19年度には20〜30%まで拡大する。
最も明確に実行計画を提示した北海道電力を例にとると、2017年4月にグロスビディングを開始して、年度末までに販売電力量の10%程度の売り入札を目指す。その後は需給運用面や経済性などで問題が生じないことを検証しながら、2019年度末までに販売電力量の30%程度まで売り入札量を増やしていく計画だ(図6)。
現時点で地域の販売電力量の9割以上をカバーしている電力会社が30%に相当する電力を市場に売り出せば、卸電力取引は間違いなく活性化するだろう。卸電力取引の中心になっているスポット市場(1日前市場)の状況を見ると、小売の全面自由化が始まった2016年4月以降も売り入札量は増えていない。それでも取引が成立する約定量は前年と比べて2倍以上に拡大した(図7)。
新電力が全面自由化後に需要家を増やしたことで、市場を通じて調達する電力量が増加したからだ。実際に新電力の買い入札量と約定量は4月以降に倍増した(図8)。一方で電力会社も買い入札量を増やしたが、約定量は逆に減っている。新電力が買い入札価格を高く設定して、市場から確実に電力を調達できるようにした結果である。
新電力の買い入札価格は4月から2倍近い水準まで高騰した。ただし電力会社の売り入札価格が低下したため、約定価格の平均値(システムプライス)は全面自由化の前よりも低く収まっている(図9)。1kWh(キロワット時)あたり7〜10円の範囲で、発電事業者から直接購入するのと変わらない水準だ。
スポット市場では1日分の売り入札と買い入札をまとめて、価格と量が一致するところで約定価格と量を確定させる(図10)。入札価格ではなくて一律の約定価格で売買する「シングルオークション方式」を採用している。
電力会社がグロスビディングによって売り入札量を大幅に増やすと、取引が成立する約定量が増えるのと同時に約定価格も下がる可能性が大きい。そうなれば新電力が現在よりも安い価格で電力を販売できる。グロスビディングを電力会社の自主的な取り組みとして促すのではなく、政府がガイドラインなどを通じて電力会社に確実な実行を求める枠組みが望ましい。
関連記事
- 自由化に反する東京電力の相場操縦、市場価格を5カ月間つり上げ
東京電力グループで小売事業を担う東京電力エナジーパートナーが、市場取引で相場操縦に該当する行為を5カ月間も繰り返していた。市場で売買する電力の売り入札価格を自社の小売原価と一致させる方法によって、価格を不当につり上げていたことが国の監視委員会の調査で明らかになった。 - CO2を排出しない原子力・再エネに、「非化石価値市場」を創設
政府は地球温暖化対策の1つとして、CO2を排出しない電源の環境価値を売買できるようにする方針だ。原子力・再生可能エネルギー・大型水力で作った電力の環境価値を「非化石証書」で取引する。小売電気事業者がCO2排出係数を低減するのに利用でき、国民が負担する再エネ賦課金も減らせる。 - 電力会社を救済する新制度、火力発電の投資回収と原子力の廃炉費用まで
政府が検討を始めた電力システム改革を「貫徹」する施策の中には、電力会社を優遇する案が盛り込まれている。火力発電所の投資回収を早めるための新市場の創設や、原子力発電所の廃炉費用を電気料金で回収する新しい制度だ。電気料金を上昇させる要因になり、国民の反発は避けられない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.