ベースロード電源市場を2019年度に新設、水力・原子力・石炭火力を売買:動き出す電力システム改革(77)(2/2 ページ)
政府は電力市場の改革に向けて、発電コストが低い「ベースロード電源」の取引市場を新設する方針だ。電力会社と電源開発が保有する水力・原子力・石炭火力のうち一定量を市場で売買するように義務づける。2019年度に市場を創設して、新電力が供給する需要の3割を目安に取引量を拡大する。
ベースロード電源の比率は地域で大きな差
ベースロード電源市場の供給側は電力会社(旧・一般電気事業者)の発電部門のほか、全国に水力発電所と石炭火力発電所を保有する電源開発が加わる。一方の調達側は新電力を優先させるものの、電力会社が他の地域で販売する場合にはベースロード電源市場で取引を認める可能性が大きい(図4)。
実際に供給側になる事業者は発電設備の出力が500万kW以上の11社と、東京電力と東北電力の合弁会社である相馬共同火力発電を含む合計12社を想定している(図5)。この12社の供給力は国全体の86%を占める。各社が抱えるベースロード電源の3割を市場で取り引きできるようになると流動性は一気に高まる。
政府の方針では日本卸電力取引所の先渡市場を利用して、定期的にオークションを実施してベースロード電源を売買する。先渡市場では年間・月間・週間を単位に、一定の出力の電源を売買することが可能だ。オークションの売り入札価格は事業者ごとに保有するベースロード電源の平均コストを上限に設定する。
ただし全国10地域の電力会社の電源構成を見ると、ベースロード電源の比率には大きな差がある(図6)。2015年度の発電電力量で算出した場合、ベースロード電源の比率が最も高いのは北陸電力で、石炭火力と水力を合わせて90%に達する。このうちの一定量が市場に出てくれば、新電力の価格競争力は大幅に高まる。
逆に比率が最も低い東京電力では石炭火力と水力の合計で24%しかない。市場規模が大きい東京電力の管内でベースロード電源市場の効果は小さくとどまる懸念がある。隣接する東北電力ではベースロード電源の比率が57%と高いため、新電力は東北電力から調達して東京電力の管内で供給することは可能だ。その場合には東北−東京間の連系線を利用する必要がある。
政府が検討中の新制度にはベースロード電源市場と並んで、地域間の連系線の利用ルールを改正する案も含まれている(図7)。これまで連系線の容量の大半を電力会社が抑えていたが、今後はオークション方式で容量を割り当てる方向だ。
ベースロード電源市場の取引を2019年度に開始するのに先立って、連系線の割り当てをオークションで実施する。2020年度にはベースロード電源市場で取り引きした電力の供給が始まる。このほかの新制度と合わせて、2020年4月に実施する発送電分離までに新たな市場環境が整う予定だ。
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