原子力事業の弊害さらに増大、政府と東京電力の責任を国民に転嫁へ:法制度・規制(2/2 ページ)
政府は東京電力の福島第一原子力発電所の事故に関連する費用が従来の想定から2倍に拡大して22兆円に達する見通しを明らかにした。東京電力が経営改革を進めても費用の全額を負担することはむずかしく、不足分は新電力の利用者を含む全需要家から回収する方針だ。
柏崎刈羽原子力の再稼働も見込む
委員会が策定した原案の中には、東京電力の経営改革を通じた利益改善策も盛り込まれている(図3)。年間0.4兆円の利益水準を早期に0.5兆円まで引き上げることが目標で、そのために送配電コストの削減を実行する。現在の1kWh(キロワット時)あたり4.5円から欧米並みの4.0円まで低減させる。
続いて第2段階として柏崎刈羽原子力発電所の再稼働で1基あたり年間に0.05兆円を削減する。さらに第3段階で送配電事業と原子力事業を他の電力会社と共同の事業体に移行して、株式の売却で国に4兆円の利益をもたらす目論見だ。ただし第2・第3段階の施策は立地自治体の反発や他の電力会社の意向もあり、実現できる可能性は決して高くない。
第1段階で実施する送配電コストの低減をはじめ、経営改革で生み出す利益は第三者が管理できるように積立金制度を創設する方針だ。東京電力グループの通常の利益から分離して、第三者が管理しながら廃炉費用として取り崩していく(図4)。廃炉処理を国が責任をもって実施するための対策である。
東京電力は国と電力会社が事故後に設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」から現在までに9兆円を超える交付金を受けて、廃炉・賠償・除染費用にあてている。その代わりに株式の50%超を同機構が保有する国有化の状態にある。この状態から早期に自立するために、福島に関連する事業(福島事業)と他の事業(経済事業)を分けたうえで、経済事業から自立を目指す(図5)。
ただし経済事業の自立には、他の電力会社と共同の事業体を設立して調達・開発の効率化を進めることが前提だ。政府は2019年に進捗状況を評価して脱・国有化を判断する。東京電力の脱・国有化は2020年4月に実施する発送電分離(送配電部門の中立化)の後になる。
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