低炭素社会に向けた日本のエネルギー戦略、どうする石炭火力と再エネの拡大:電力供給サービス(3/3 ページ)
日本が取り組む温暖化対策では2030年の目標達成だけではなく、2050年以降を見据えたエネルギー戦略の転換が重要だ。CO2排出量の多い石炭火力発電を抑制しながら、コストの低下が進む再生可能エネルギーを飛躍的に拡大させる。政府は2050年に向けた低炭素社会のビジョンを策定する。
地域を越えて再エネを売買する時代に
火力発電に伴うCO2排出量を削減する対策はほかにもある。発電後の排ガスからCO2を分離・回収して、地下に貯留する方法や燃料の生産に利用する方法がある(図7)。石炭火力発電のCO2を分離・回収する技術の開発は日本が進んでいる。国が支援して実証設備の運転が始まり、2020年代に実用化できる可能性が高まってきた。
内閣府が2016年4月に策定した「エネルギー・環境イノベーション戦略」では、2050年を見据えた革新的なエネルギー技術を網羅した。次世代の蓄電池や太陽光発電と合わせて、CO2を回収・利用する技術戦略が加わっている(図8)。実用化できればCO2排出量を削減することにとどまらず、新たなビジネスの創出にもつながる。低炭素社会の実現に向けた有効な対策になる。
その一方で再生可能エネルギーの拡大と原子力発電の位置づけも重要だ。環境省が策定する長期低炭素ビジョンでは、原子力発電に関して踏み込んだ内容を盛り込む可能性は小さい。2050年の時点では大半の原子力発電設備が運転開始から40年以上を経過しているため、運転延長や新設・設備更新を認めなければ原子力発電は消えていく。
対照的に再生可能エネルギーは2030年のエネルギーミックスを上回る勢いで拡大している。環境省は再生可能エネルギーの電力を2030年に33%へ、2050年には60%以上まで増やせる試算結果を公表したことがある。経済産業省がエネルギーミックスで設定した22〜24%を超える想定だ。それでも2050年に低炭素電源の比率を9割超へ高めるには足りない。
再生可能エネルギーの分野にも次世代技術の実用化が必要になってくる。その1つが水素エネルギーの活用だ。再生可能エネルギーで発電した電力から水素を製造して、地域を越えて輸送・貯蔵したうえでエネルギー源として利用する。そうすれば需要を上回る電力を再生可能エネルギーで作っても無駄にならない。
環境省は全国各地に分布する再生可能エネルギーのポテンシャルをもとに、全量を導入できた場合のCO2排出量を算出した。北海道や東北を中心に需要を上回る再生可能エネルギーを導入することが可能で、余剰分を他の地域に販売して収益を上げられる(図9)。衰退する地方経済の活性化につながる期待は大きい。
日本が目指す低炭素社会は農村・漁村と都市のそれぞれで再生可能エネルギーを地産地消しながら、地域間で資源や資金を循環させて共生するイメージだ(図10)。こうした自律分散・循環型の社会を形成できれば、温室効果ガスの排出量はゼロに近づいていく。
関連記事
- 「低炭素電源」を2050年に9割超へ、温暖化対策で地域経済を潤す
環境大臣の私的懇談会が国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに80%削減するための長期戦略を提言した。地域の再生可能エネルギーを中心に排出量の少ない電源の比率を9割以上に高める一方、建物の低炭素化や都市のコンパクト化を推進してエネルギー消費量を40%削減する。 - 2030年に再生可能エネルギー33%へ、原子力にこだわらない環境省の予測
CO2排出量の削減を重視する環境省が再生可能エネルギーの将来予測をまとめた。現行の施策に加えて合理的な対策を実施することにより、2030年には国内の発電電力量の33%を再生可能エネルギーで供給できる想定だ。経済産業省が検討中のエネルギーミックスよりも意欲的な拡大を見込む。 - 水素+再生可能エネルギーで電力と燃料を作る、CO2削減の切り札に
火力発電に伴って大量に発生するCO2の削減が世界全体で緊急課題になっている。CO2を排出しない再生可能エネルギーに加えて水素を活用する取り組みが日本の各地で始まった。下水処理で発生するバイオガスや太陽光・風力・小水力発電から水素を製造して、燃料電池で電力と熱を作り出す。 - 火力発電のCO2は減らせる、水素やバイオ燃料の製造も
日本の電力の中心になる火力発電の最大の課題はCO2排出量の削減だ。発電効率の改善に加えて、CO2を回収・利用・貯蔵する「CCUS」の取り組みが進み始めた。2030年代にはCO2の回収コストが現在の3分の1に低減する一方、CO2から水素やバイオ燃料を製造する技術の実用化が見込める。 - 太陽光・風力発電のコストが急速に低下、海外で単価3円を切る電力の契約も
世界の再生可能エネルギーの最新動向について、自然エネルギー財団のトーマス・コーベリエル理事長が東京都内で講演した。太陽光と風力が各地域で拡大して、発電コストが火力や原子力を下回る状況になってきた事例を紹介するとともに、導入量が増加しても送配電の問題は生じないと語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.