神話を破壊、111%の電力生むデンマークの風力:自然エネルギー(4/4 ページ)
風力発電など、再生可能エネルギーに由来する発電所をこれ以上増やすことが難しいという議論がある。系統が不安定化したり、火力発電所の増設が必要になったりするという理由だ。このような主張は正しいのだろうか。風力だけで消費電力の100%以上をまかなったデンマークの事例を紹介する。
短時間の変動も吸収
図6から分かることがもう1つある。短時間で連系線の容量を使い切ったり、減らしたり自在な運用を生かしていることだ。それどころか、短期間に送電方向を逆向きに切り替えている。輸出から輸入へ、また輸出へ。自由自在だ。
日本国内では連系線を利用する場合、最短でもスポット市場において翌日分の容量を確保できるにすぎない。これでは風力の変動を吸収することは難しい。
デンマークでは当日も市場メカニズムを利用して動的に連系線を運用している。その結果が、図6で複雑に揺れ動く利用量の変化となって現れている。
連系線を利用する場合、電力の量だけではなく、複数の系統間での電力の価格も考慮しなければ、最適な調達ルートが決まらない。このような複雑な判断が必要であっても、デンマークでは柔軟な対応ができている。従って次の神話は誤りだ。
神話7:連系線は短時間の変動を吸収できない
日本の電力システムにも役立つ
デンマークの状況から分かることは何だろうか。大規模な国際連系線を建設し、運用できれば、火力発電所の規模を抑えながら、風力発電を大量導入できることだ。
デンマークは5本の主要な国際連系線に加えて、新たにオランダと結ぶ連系線を建設することが決まっており、英国との間にも連系線を計画中だ。国際連系線を増やすことで、より一層安定した低価格の電力を調達する計画だ。デンマーク国内に建設する洋上風力発電所は世界で最もコスト競争力がある(関連記事)。これを輸出してもよい。
日本国内の電力会社と比較すると、デンマークの規模は北海道電力とほぼ等しい(北陸電力、四国電力ともほぼ等しい)。つまり日本に置き換えて考えれば、海外を結ぶ連系線を増強しなくても、国内間で同様の取り組みを進める余地がある*5)。
日本国内で再生可能エネルギーを利用した発電の比率を高めるには、この後、どのような取り組みを考えればよいだろうか。連系線を増強する一方、リアルタイムに近い運用が可能な仕組みを作り上げることだ。同時に国際連系線の取り組みを始めることだろう。
*5) 再生可能エネルギーの大量導入を問題なく進める方法は、(国際)連系線だけではない。欧州内で再生可能エネルギー由来の発電量が大きな国でも、連系線の比率が低い場合がある。デンマークやドイツが連系線にほぼ頼っている一方、スペインやポルトガルはいずれも国際連系線に乏しく、水力やガスタービンで細かく調整する手法を編み出している。アイルランドはガスタービンだ。
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