地中送電線の火災事故を防止する対策、2020年のオリンピックまでに完了へ:電力供給サービス(2/2 ページ)
東京電力の地中送電線で2016年10月に発生した火災事故の原因究明と再発防止策の進捗が明らかになった。火災現場の送電ケーブルを搬出して調査を進める一方、劣化の可能性があるケーブルの緊急点検を実施中だ。古いケーブルの張替工事を進めながら2020年3月までに防災対策を完了させる。
IoTでケーブルの異常放電を検知
送電ケーブルの緊急点検を進める一方、火災で使えなくなった送電線の復旧工事を急ぐ必要がある。事故の影響を受けた2系統の送電線のうち「北武蔵野線」を2017年6月までに復旧させる(図6)。3本ある送電ケーブルの2本を優先的に更新する計画で、新しいタイプの「CV(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシース)ケーブル」に張り替える。
CVケーブルは耐熱性に優れたポリエチレンを絶縁体に使っていて、OFケーブルのように内部に油を流す必要がなく、ケーブルが燃えて火災を引き起こす可能性は低い。北武蔵野線の残り1本と、もう1系統の「城北線」の3本も、2019年度をめどにCVケーブルに張り替える計画だ(図7)。
東京電力PGは老朽化が進んだOFケーブルを対象に、2002年度から防災対策を実施してきた。ケーブルの周囲を防災シートでカバーする方法が主な対策である。火災事故が発生した「新洞26」の中では、最も低い位置にある「城北線1番」だけ防災シートでカバーしていた(図8)。
ただし城北線1番のOFケーブルも火災事故の影響を受けて絶縁状態が破壊した。東京電力PGは現在のところ防災シートの有効性を改めて検証していない。今後も防災シートか自動消火設備の導入を進めて、2019年度までに4603カ所すべての設置を完了することにしている。2020年の夏に開催する東京オリンピック・パラリンピックに間に合わせる。
新たな防災対策としてIT(情報技術)も取り入れる方針だ。OFケーブルのうち超高圧の275kV(キロボルト)の送電線を対象に、ケーブルの先端部分や接続部分に電流センサーを設置して異常を検知する(図9)。
OFケーブルの劣化によって絶縁状態を保てなくなると、部分的に放電が発生する可能性がある。その電流をセンサーで検知して異常を把握する仕組みだ。センサーで計測したデータを無線ネットワークでITシステムに送信して分析する。このところ産業界で注目を集めているIoT(Internet of Things、モノのインターネット)を活用した設備の故障を予知するシステムである。
東京電力PGは優先度の高い送電線を対象に、IoTによる部分放電監視システムの測定試験を2017年3月末までに実施する。その結果をもとに2017年度から適用範囲を拡大していく。地中にある無人の送電設備の異常をIoTで素早く検知できると、事故の防止と点検コストの削減につながる。
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