リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは:蓄電・発電機器(4/4 ページ)
電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。
添加剤の効果あり
アルミニウムとは結合せず、鉄と特異的に結合する物質として硫黄化合物が考えられる。「立体障害が起きると困るため、硫黄を含む低分子化合物を選んだ。さらに実験中に他のグループからひどい臭気の問題があると指摘されたため、NaSCN(チオシアン酸ナトリウム)を選択した」(陶山氏)。チオシアン酸ナトリウムは、試薬や染色、除草剤に用いられる化合物だ。
チオシアン酸ナトリウムを添加したところ、顕著な効果を示した。自己放電時に発生する水素の発生速度を測定した結果だ。添加剤を導入することで自己放電速度を3分の2に抑えることができたという。
放電残渣については効果があったのだろうか。「添加剤を加えた電解液にアルミニウム板を浸漬すると、残渣が細かい散らばった状態となった。放電残渣を微細化できたということだ」(陶山氏)。電池の放電が抑制されにくくなる。
この結果、アルミニム負極だけを観察する半電池(ハーフセル)において、容量が30%増えたという。さらに電池の内部抵抗に由来する過電圧も下がった。
トヨタ自動車の研究は、さまざまな品質のアルミニウムのうち、安価な材料を用いながら、電池の性能を落とさないように工夫するというもの。電気自動車に向けた実用性を優先した研究内容といえるだろう。
【更新履歴】 本文公開後、注1と注2の順番を入れ替えました(2016/12/26)。
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