電力会社に再編を促す東京電力の改革案、発電・送配電の統合は必至:電力供給サービス(3/3 ページ)
政府は福島第一原子力発電所の廃炉・賠償・除染に必要な22兆円の資金を確保するため、東京電力に火力発電・原子力発電・送配電事業を他社と統合して競争力を高めるように強く求めた。電力市場の自由化と再生可能エネルギーの導入を推進するうえでも電力会社の再編・統合が欠かせなくなった。
送配電事業は東日本と中・西日本で統合へ
対照的に送配電事業の再編・統合はさほどむずかしくない。電力会社の送配電事業は国の許可制のもとで競争状態にないからだ。2020年4月に実施する発送電分離によって、各社の送配電事業は発電・小売事業から独立する(図9)。地域を越えて設備や人材を統合すれば、送配電ネットワークの運用・保守を効率化できるうえに、再生可能エネルギーの拡大に向けて不可欠なネットワークの増強にも取り組みやすい。
国内の送配電ネットワークは周波数の違いで東日本の3地域と中・西日本の6地域に分かれている。地域間を連系線で結んで電力をやりとりできる仕組みだが、東日本と中・西日本のあいだは東京−中部間で周波数を変換する必要があるために送電できる容量が小さい(図10)。
電力会社の送配電事業を再編・統合するにあたっては、東日本と中・西日本の2つに分ける方法が合理的だ。電力の需要が大きい東京電力と再生可能エネルギーの発電ポテンシャルが大きい北海道・東北電力の送配電ネットワークを統合すれば、再生可能エネルギーの導入量を大幅に増やすことが可能になる。関西電力を中心とする中・西日本の6地域でも同様のメリットが見込める。
海外では国をまたいで電力を売買する仕組みが定着している。天候によって出力が変動する太陽光発電や風力発電の電力を地域や国を越えて供給することによって、再生可能エネルギーの導入量を飛躍的に増やしても送配電ネットワークに悪影響を及ぼさない。火力や原子力よりも発電コストが低くなり、再生可能エネルギーを利用するメリットがますます高まっていく。
再生可能エネルギーによる電源が世界各地に拡大する中で、日本は大きく遅れをとっている。政府が推進する電力システム改革の中身を見ても、旧来の火力・原子力を中心とする電源と既存の送配電ネットワークを活用する対策ばかりで、本来の改革からは程遠い状況だ(図11)。もっと長期を見据えた抜本的な対策に早く取り組む必要がある。
東京電力の改革案の中でも、日本のエネルギー産業の将来について次のように論じた。「2050年にまで視野を広げれば、世界が参加するパリ協定により、我が国は地球温暖化ガス80%削減を目指し、多くの国も同様の抜本的な削減目標を掲げている。このことは、既存のエネルギー技術の改良ではなく、革新を実現できたエネルギー事業者が電力の安定を担っていくことを意味する」。革新の必要性は東京電力だけにとどまらない。
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