自治体新電力の草分け、みやまスマートエネルギーの戦略とは:自然派新電力が開くエネルギーの未来(3)(3/3 ページ)
自然エネルギー志向の消費者ニーズに応え、それぞれに多様な価値を提案する自然派新電力をリポートする本連載。第3回では、自治体主導による新電力の草分けとして知られる「みやまスマートエネルギー」をフィーチャーする。いち早く電力小売を開始した同社だが、はたしてその取り組みは成功裡に進んでいるのか? そもそも、なぜ自治体が新電力に取り組むのか? その意義と現状を探った。
先進のHEMSを活用し、生活総合支援サービスを拡充
加えて、同社が自治体新電力として重視しているのが、「生活総合支援サービス」だ。その1つである高齢者見守りサービスでは、お年寄りの生活行動を電気使用状況によって見守り、普段と違った行動が見つかった場合には、親族などの登録者に確実に連絡をとってくれる。
こうしたサービスにはHEMS(Home Energy Management System)が必要となるが、これには、みやま市が新電力設立に先立って参画した経済産業省の「大規模HEMS情報基盤整備事業」が生かされている。同事業において導入されたタブレット端末が、みやまスマートエネルギーの取り組みにそのまま使われている格好だ。従って、これにともなう利用者の負担はまったくない。
ちなみに、実験を経て好評だったのが、市民の健康づくりをサポートする取り組み。フィットネスクラブ大手のティップネスおよびNTTコムウェアと提携し、健康づくりのためのコンテンツを自宅のテレビに設置した機器を通じて配信。自宅での毎日のトレーニングを支援するとともに、「1週間に1回、公民館に行って皆でカラダを動かそう」という活動にもつながったという。
自治体連携により、電源調達の安定化と低価格化を実現
自治体新電力にとって、今後ますます重要な意味をもってくるのが、他の自治体との連携だ。例えばそれは、価格競争力の強化や電源調達の安定化に貢献する。
価格競争力については、自治体同士で連携し電力を共同購買することで、調達コストの削減を図ることができる。さらに、管理コストの分担や、電力融通によるインバランスリスクの低減も可能となる。自治体単独では小規模であっても、共同で取り組めばスケールメリットを得ることができるのだ。みやまスマートエネルギーでは、近隣の自治体と手を結ぶとともに、九州一円での広域自治体連携に向けて検討を進めている。
電源調達の安定化についても、広域自治体連携が重要な役割を果たす。はじめに紹介したように、みやまスマートエネルギーでは東京都環境公社の需給管理をサポートしているが、同公社で電気が余った場合には、みやま市にその電気を送るという運用をおこなっている。そもそも東京都環境公社の電力は、宮城県気仙沼市のバイオマス発電所など、広域から調達した再生可能エネルギーが中心。みやまスマートエネルギーにとっては、広域融通によって、再エネ比率を落とすことなく電源調達の安定化を実現しているというわけだ。今後、こうした広域融通は、自治体新電力の発展に不可欠なものとなっていくだろう。
2016年12月12日現在、登録小売電気事業者372社中、自治体が出資する新電力会社は20社を数える。現在、検討中という自治体も少なくない。自治体新電力ならではのサービスで、どれだけの地域に根付いていくことができるのか……関心は高まるばかりだ。
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