電車を「風力100%」で運行、オランダ鉄道:自然エネルギー(2/2 ページ)
公共交通機関を再生可能エネルギーだけで動かす。化石燃料削減と二酸化炭素排出量0に向かう目標だ。オランダ最大の鉄道事業社であるNSは、2017年1月1日から全ての電車を風力発電由来の電力で運行し始めた。オランダは自動車でも同様の取り組みを進めようとしている。
目標を1年前倒しで実現
同社は2014年5月にオランダの電力事業者であるEnecoと今回のプロジェクトに関する契約を締結。2015年から10年間、EnecoがNSに100%風力由来の電力を供給する内容であり、電力の「グリーン化」(風力発電など再生可能エネルギーを利用すること)を徐々に進める計画を打ち出した。
当初の計画は2015年中に50%の電力をグリーン化。次第に比率を高めていき、2018年に100%に至るというもの(図3)。100%に至った段階でEnecoが供給する電力量はかなりのものだ。首都アムステルダムの住宅の年間消費電力量とほぼ等しい1.4テラワット時(TWh)に達すると予測していた*3)。
*3) EnecoはNSに1.2TWh、その他の鉄道事業者に0.2TWhに風力発電由来の電力を供給するとしていた。その他の鉄道事業者とは、VIVENS(Verenigd Inkoop en Verbruik van Energie op het Nederlandse Spoorwegnet、オランダ鉄道ネットワークにおけるエネルギー調達と消費連合)に加盟する4つの旅客輸送会社と11の貨物輸送会社、2つの鉄道保守関連会社。NSもVIVENSに加盟している。
実際には2018年を待たずに、計画を1年前倒しできた。Enecoが建設する国内外の風力発電所が予定よりも早く規模を拡大できたためだという。
NSなどに供給する電力のうち、約50%はオランダ国内から供給を受け、残りの約50%はベルギーやスカンジナビア諸国から調達する計画を公開している(図4)。
電車をさらに改善、自動車も
鉄道は公共交通機関の中で、エネルギー利用効率が最も高い。計画が始まる以前から、1kmを運行する際に排出する二酸化炭素(CO2)が30gと少なかった(図5)。今回の計画達成によってこれが0gにまで下がった。自動車の排出量は125gであり、比較にならないほど多い。
NSには次の計画もある。二酸化炭素排出量削減に続いて、電車のエネルギー利用効率自体を高めるという目標だ。乗客1人を運ぶために必要な電力を、2020年までに2005年比で35%削減する。
化石燃料の利用比率を引き下げ、再生可能エネルギーの比率を高めるには、輸送部門の改善が欠かせない。オランダでは今回の取り組み以前の段階で、二酸化炭素の総排出量のうち約20%を輸送部門が排出していたからだ。
このような取り組みを進めているのはNSだけではない。オランダは輸送部門全体を改善しようとしている。例えば自動車の「グリーン化」だ。先行したのは首都アムステルダム市。2040年までに全ての私有車を電気自動車化することを決定している。2016年には、オランダ国内でガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する政策を政府与党が掲げた。期限の目標は2025年だ。
輸送部門においても再生可能エネルギー由来の電力でまかない、なおかつエネルギー利用効率も高める。NSやEnecoのような取り組みを、日本にも取り入れることができないだろうか。
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