豪州産のCO2フリー水素を東京オリンピックに、輸送船を建造・運航へ:自然エネルギー(2/2 ページ)
日本とオーストラリア(豪州)の政府が共同でCO2フリー水素の製造・輸送事業を推進する。オーストラリア国内で未利用の状態にある石炭から水素を製造して日本まで輸送する計画だ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックで豪州産のCO2フリー水素を利用可能にする。
神戸市の空港島に受入基地を整備
日本政府は世界に先がけて水素社会を構築する方針を掲げて2014年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定した。国を挙げて水素エネルギーの導入と技術開発に取り組む構想だ。当面の目標は2020年の東京オリンピック・パラリンピックで水素エネルギーの活用イメージを世界にアピールすることである(図5)。そのために安価なCO2フリー水素を製造・輸送・利用する技術開発と実証プロジェクトを推進していく。
オーストラリア産のCO2フリー水素を活用する水素サプライチェーンの構築は重要な施策の1つだ。運搬船の建造を進めるのと合わせて国内の受入体制も整備する必要がある。すでに兵庫県・神戸市の沖合に浮かぶ空港島では、液化水素の荷役・貯蔵設備を建設するプロジェクトが動き出している(図6)。
技術研究組合のHySTRAを構成する川崎重工業・岩谷産業・電源開発・シェルジャパンの4社が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて受入設備を建設する計画だ。タンカーから液化水素を揚荷・積荷できる基地を神戸空港島に整備して、国内各地に水素を供給できるインフラを構築する。2019年度に試運転を開始して2020年度から実証運転へ移行する予定になっている。
日本と海外をつないだCO2フリー水素のサプライチェーンは2020年に開始する実証運用を皮切りに、2030年代から商用ベースで大規模に展開する構想だ。2020年の時点では小型の液化水素運搬船を使うが、2025年をめどに大型のタンカーで大量の液化水素を輸送できるようにする(図7)
2030年代の商用段階では6隻のタンカーを運航しながら、海外の製造プラントと国内の受入プラントをそれぞれ3カ所に展開していく。さらに2050年には製造・受入プラントを40カ所ずつに拡大して、発電容量に換算して4000万kW(キロワット)の水素エネルギーを国内で供給できる体制を目指す(図8)。実現すれば日本のエネルギーの生産・利用構造は大きく変わり、CO2排出量も劇的に減る。
関連記事
- 燃料電池とCO2フリー水素が全国へ、空港にホテルに競馬場にも
日本が世界をリードする水素エネルギーの導入プロジェクトが全国に拡大中だ。太陽光や風力で作った電力からCO2フリーの水素を製造して燃料電池で利用する取り組みをはじめ、家畜のふん尿や下水から水素を製造して地産地消する試みも始まる。水素社会が大都市と農山村の両方に広がっていく。 - 水素エネルギーの国家プロジェクト、2020年に低炭素な街づくりを実証
政府は東京オリンピック・パラリンピックで低炭素な水素社会を世界にアピールするために、各省庁が連携して技術開発を推進していく。中核を担う内閣府がCO2フリーの水素を輸送する「エネルギーキャリア」の構築を主導する一方、経済産業省や環境省などは水素の製造・利用面に注力する。 - 水素サプライチェーンを2020年に神戸へ、発電用に大量の水素を輸送・貯蔵
国を挙げて取り組む水素エネルギーの導入に向けて兵庫県の神戸市で実証事業が始まる。液化した水素を運搬・貯蔵する設備を瀬戸内海に浮かぶ空港島に建設して2020年に運転を開始する計画だ。石炭から水素ガスを精製する技術や海上輸送用のタンクも開発してサプライチェーンを構築する。 - 福島県産の水素を東京へ、再生可能エネルギーが200キロの距離を越える
東京都と福島県は再生可能エネルギーによる水素の製造から輸送・貯蔵・利用までの取り組みを共同で加速させる。国の産業技術総合研究所を加えた研究開発プロジェクトを通じて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで福島県産のCO2フリーの水素を活用できるようにする計画だ。 - 水素で広がるスマートシティ、2020年のオリンピックに電力・熱・燃料を供給
東京オリンピック・パラリンピックは日本が水素社会へ向かう大きなステップになる。首都圏を中心に水素ステーションが増えて、燃料電池車や燃料電池バスが都心を走り回る。競技場や選手村には燃料電池で電力と熱を供給する予定だ。大都市ならではの地中熱を取り入れたビルの建設も進む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.