農業や林業に悪影響、石炭火力:自然エネルギー(3/3 ページ)
石炭火力発電所に対する環境規制が、作物の収量を改善することが分かった。石炭火力発電所などが排出する窒素酸化物がオゾンを生み出し、作物や樹木にも悪影響を与えるからだ。地球温暖化対策や大気汚染防止策が、農業にもよい影響を与える。
コストに応じて便益が増加
図1に示したような排出量削減が、どのように作物の生産量に影響を与えたのか、研究では3つのシナリオを比較している。
図1の参照シナリオは現在の状況を示しており、窒素酸化物やオゾンの影響を既に植物が受けている。オゾンがない場合と比べて生産量が減っていることになる。計算によれば、ダイズとジャガイモ、綿花の収量が約1.5%減少しており、トウモロコシに与える影響はそれよりも小さい。
シナリオ1〜3の対策を講じた場合、いずれも収量に効果があった。低コストのシナリオ1でも効果があるものの、最大の効果を生み出したのは、意外にもシナリオ3ではなく、シナリオ2だった(図2)。参照シナリオの場合にトウモロコシに100の損失が生まれるとして、シナリオ2ではこれを84.3まで押さえ込むことができたからだ。
農作物だけでなく、樹木の成長にもよい影響があった。ブラックチェリーの損失は7.6%抑制され、アメリカクロポプラは8.4%だった。つまり林業においても得られる材木の量が増えることになる。
図2 3種類のシナリオによって4種類の主要作物への悪影響が軽くなった 左からトウモロコシ(corn)、綿花、ジャガイモ、ダイズへの影響を示す。シナリオ1〜3を当てはめると、いずれもオゾンなどによる収穫量悪化の影響を抑えることができるものの、シナリオ2が優れていることが分かる(円の面積が大きいほど損失を抑えている) 出典:Drexel大学
二酸化炭素排出規制が良い副作用を生んだ
比較的高いオゾン濃度が農作物や樹木に悪い影響を与えること自体は、1988年に発表された先行研究などによって既に明らかになっている。1時間当たりのオゾン濃度を積算した値が1日当たり0.04ピーピーエム(ppm)を超える状態、これが3カ月続くと、悪影響が生じるという。今回の論文でも冒頭でこのような先行研究を引いている。
今回の研究の新規性は、米国EPA(環境保護庁)が2015年に策定した「クリーンパワープラン」で用いた手法*4)を適用し、化学物質の輸送モデルから、大気中の分布を調べ、植物へのオゾンの影響を示した点だ。EPAは植物に対する定性的な影響を調べているものの、定量的な影響は評価していなかった。実はシナリオ2は、EPAのクリーンパワープランの規制内容とよく似たモデルであり、EPAが手を付けていなかった分析を肩代わりした形になっている。
*4) クリーンパワープランはヒトに対する排出物の影響を低減するために電力部門の炭素排出基準を定めたもの。PM2.5などの粒子状物質やオゾンによって、ヒトの死亡率や罹患率がどのように変化するかを調べている。
石炭火力発電の影響は米国に限らない
今回の研究結果は米国を対象としたものだ。しかし、石炭火力の排出物によって農林業の生産量が落ちるという現象は世界共通だ。
環境省が2016年3月に発表した「平成26年度 大気汚染状況について」では、オゾンを含む大気中の光化学オキシダントの環境基準達成率について報告している。全国1494カ所に位置する一般環境大気測定局のうち、光化学オキシダントの環境基準を達成した局は1つもなかった。達成率0%である*5)。
石炭火力の規模が大きく、かつ農作物の収量を増やしたい国は、今回の研究の結論を自国に当てはめた方がよいだろう。
*5) 達成率0%は、常時オゾン濃度が高いということを意味していない。1時間ごとの光化学オキシダントの濃度が1年を通じて1回でも0.06ppmを超えると、環境基準に不適合と判定しているからだ。なお、二酸化窒素の環境基準達成率は100%(一般局)だった。
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