「改正FIT法」の施行日が迫る、買取制度に大きな変化:自然エネルギー(3/3 ページ)
固定価格買取制度(FIT)の実施方法を規定した法律が5年ぶりに改正される。2017年4月1日に施行する「改正FIT法」では、買取価格の決定方法を電源別に分けることに加えて、買取の対象になる発電設備の認定方法を大幅に変更する。認定を受けるためには保守点検を含む事業計画の策定が必要だ。
買い取った電力は市場で売買する
小売電気事業者にとっては、電力の買取から供給までの流れが変わる点にも注意が必要だ。従来は小売電気事業者が発電事業者から買い取る方式だったが、改正FIT法の施行後は送配電事業者(電力会社の送配電部門)が買い取る形になる(図10)。小売電気事業者は送配電事業者から電力の供給を受けて需要家に提供する。
実際に電力を売買する方法は卸電力取引所を通じた形が基本になる。送配電事業者が発電事業者から買い取った電力を卸電力取引所に引き渡して、小売電気事業者が市場で買い付ける方法だ(図11)。送配電事業者の意向に関係なく、小売電気事業者が市場を通じて自由に再生可能エネルギーの電力を購入できる。
ただし例外になるケースがある。発電事業者と小売電気事業者のあいだで個別契約を締結した場合には、両社間で電力のやりとりが可能だ。このほかに市場が存在しない沖縄県や全国の離島では、送配電事業者が小売電気事業者に対して電力を直接販売する。
政府は電力市場の改革と温暖化対策の観点から、改正FIT法の施行に合わせて、再生可能エネルギーを含む「非化石電源」の電力を取引する新市場を創設する方針だ。原子力と大型水力を加えて、CO2(二酸化炭素)を排出しない電源の利用を拡大する狙いである(図12)。
非化石電源で作った電力を証書の形で「非化石価値」として市場で取引できるようにする。小売電気事業者や発電事業者が非化石価値を購入すると、CO2排出量の削減に利用できて、CO2排出係数の低減につながる仕組みだ。一方で電力そのものは非化石価値のない状態になり、通常の市場で取り引きできる。
現在のところ2017年度内に非化石価値取引市場を創設して、FITの対象になる再生可能エネルギーの電力から取引を開始する予定だ。このほかの原子力と大型水力は2019年度から取引できるようにする計画だが、原子力に関しては反対の声が強いため実現できない可能性がある。
新市場を通じて再生可能エネルギーの非化石価値を売買できるようになると、その収入が国に入って、電力の利用者が負担する賦課金を減らすことができる(図13)。小売電気事業者は非化石価値を購入することで、高度化法(エネルギー供給構造高度化法)で定められた非化石電源の比率目標(2030年度に44%以上)を達成しやすくなる。
改正FIT法と合わせて卸電力取引所の活性化を促進して、再生可能エネルギーの導入量を長期的に拡大していく。政府がCO2の削減目標を国際公約した2030年に向けて、欧米の先進国よりも低い再生可能エネルギーの比率を2倍に高めなくてはならない(図14)。改正FIT法の成功が大きなカギを握っている。
関連記事
- 再生可能エネルギーの発電コストが下がり、買取制度から自家消費へ
2017年に再生可能エネルギーは大きな節目を迎える。固定価格買取制度の改正によって、価格の引き下げと発電コストの低下が進む。電気料金の水準よりも低く抑えて自家消費を促し、買取制度に依存しない導入環境を確立する。営農型の太陽光発電など地域の産業と連携する試みも広がっていく。 - 太陽光発電の買取価格は事業用を21円に、風力発電は3年後に19円へ
2017年度に認定を受ける再生可能エネルギーの発電設備に対する買取価格の案がまとまった。太陽光発電は事業用が3円減の21円に、住宅用も3円減の28円に引き下げる。風力発電は2019年度まで1円ずつ下げていく。中小水力発電とバイオマス発電は大規模な設備に限定して買取価格を低減する。 - 日本の太陽光発電を増やす、市場構造を変えてコスト低減
再生可能エネルギーの中で最も導入しやすいのが太陽光発電だ。今後も長期的に導入量を拡大するために、政府の研究会が太陽光発電の競争力を強化する方向性をまとめた。最大の課題は導入費と運転維持費を低減することで、日本特有の複雑な市場構造が高コストの一因になっていると指摘した。 - 風力発電のコストを世界水準の8〜9円に、FIT依存から自立へ
世界に広がる再生可能エネルギーの中で導入量が最も多いのは風力発電だが、日本では伸び悩んでいる。発電コストが世界の平均と比べて1.6倍も高いことが大きな要因だ。2030年までに発電コストを8〜9円/kWhへ引き下げて、固定価格買取制度(FIT)に依存しない電源へ自立させる。 - CO2を排出しない原子力・再エネに、「非化石価値市場」を創設
政府は地球温暖化対策の1つとして、CO2を排出しない電源の環境価値を売買できるようにする方針だ。原子力・再生可能エネルギー・大型水力で作った電力の環境価値を「非化石証書」で取引する。小売電気事業者がCO2排出係数を低減するのに利用でき、国民が負担する再エネ賦課金も減らせる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.