12の予測は光と影、2035年のエネルギー(2):自然エネルギー(6/6 ページ)
英国の国際石油資本BPが2035年までの世界のエネルギー動向を予測した「BP Energy Outlook 2017 edition」。前回に引き続き、今回は再生可能エネルギーや電力、二酸化炭素排出量などについて、4つの予測を紹介する。
過去の予測は当たったのか
予測の12番目に不確実性を含めたBPの姿勢は誠実だといえるだろう。BPの誠実さはもう1つある。過去版のOutlookの予測と今回の予測の間にどの程度整合性があるのか、きちんと検証していることだ。
まずは各エネルギー源の推移だ(図8)。過去5年間の予測と比較した結果から分かることはこうだ。2035年のエネルギー需要の総量や石炭、ガスの需要について今回の予測は従来の予測の下限に近いものの、ほぼ範囲内に収まっている。下限に近くなったのは、経済成長率の予測が今回低いためだ。
逆に再生可能エネルギーは過去の予測範囲の上限をはっきり突き抜けた。再生可能エネルギーのコスト低減が予想を超えて進み、導入量が増えるためだ。
予測の方向を180度変えたのは、石油と原子力。これまでは石油の需要が伸び続けると予測してきたが、今回は1.9%低減するとした。原子力は石油の逆だ。需要が増える。
化石燃料の需要が全て下がり、再生可能エネルギーが上がる。このような修正によって、二酸化炭素排出量の予測は過去最低となった。
図8 各エネルギーの増減を過去の予測と比較した 2012年から2016年に発表した過去のBP Energy Outlookの予測範囲を薄い灰色で示した。 出典:BP Energy Outlook 2017 edition
地域ごとのエネルギー状況についても、過去の版と今回の予測を比較している。
取り上げた地域は米国とEU。比較対象は2011年版のOutlookだ。図9は3つのエネルギー源について、シェアの予測値がどのように変わったかを示したものだ。
再生可能エネルギー(オレンジ色)についてはどちらの地域も、今回の予測値が単純に高い。未来になるほど高くなり、2030年には10ポイント近く増える。これは再生可能エネルギーの成長が止まらないことを意味する。
米国では2030年時点の石炭(灰色)のシェアを15ポイント近く下げた。逆に天然ガス(赤色)は10ポイント近く高めている。シェール革命の影響が大きい。
EUの予想はもう少し複雑だ。石炭の需要は2020年まで過去の予測よりも多くなるとし、その後、2030年には5ポイント程度低くなると予測した。石炭削減政策が遅れるものの、いったん削減が始まると急速に進むということだ。ガスの需要は低い位置で推移する。ごく近い将来は10ポイント弱、2030年では5ポイント以上予測シェアを下げた。
12の予測の光と影
前回と今回、2回に分けて世界のエネルギーの未来を照らす、BPの12の予測を紹介した。予測全体のトーンは光と影の2つに分かれる。光の側面はこうだ。2035年のエネルギー需給は安定しており、エネルギー不足は起こらない。価格水準も下がる。豊富な天然ガスと再生可能エネルギーが石炭や石油の地位低下を補う。
影の側面に対しては、より一層の対策が必要だ。このままでは温暖化対策に必要な二酸化炭素排出量削減が、十分進まない。これを解決するには、電気自動車の普及を軸とした交通革命を進めるとともに、発電部門における再生可能エネルギーの比率をOutlookのベースケース以上に高めなければならない。
次回は12の予測から離れて、Outlookが予測した中国のエネルギー動向を紹介する。世界のエネルギーの未来を左右するのは中国だからだ。
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