長期低炭素ビジョンがまとまる、CO2排出量を80%減らす施策:法制度・規制(2/2 ページ)
環境省は長期にわたってCO2を削減する「長期低炭素ビジョン」の素案をまとめた。2050年までにCO2排出量を80%削減する目標に向けて、炭素税を導入する施策などを通じて産業界にイノベーションを促す。炭素税は石炭火力発電所の新設を抑制し、再生可能エネルギーのコストを低下させる。
全世界が排出できるCO2は残り1兆トン
日本のCO2排出量は過去20年以上にわたって13〜14億トンで推移してきた。震災後の2013年度をピークに、直近の2年間で排出量は減り始めている。2030年度に26%削減(2013年度比)することが当面の目標だが、さらに2050年度までに80%削減しないと世界の共通目標に到達しない。その間にも各年度の排出量を可能な限り少なく抑えて、累積の排出量を縮小することが温暖化対策の観点では重要になる(図4)。
21世紀を通じて世界の平均気温を産業革命が起こった1860年代と比較して2℃以下に抑えるためには、1870年以降に人為的に排出したCO2の累積排出量を3兆トンに抑制する必要がある。すでに3分の2にあたる2兆トンを排出済みで、残りは1兆トンしかない。この1兆トンを「カーボンバジェット(炭素予算)」に設定して、世界各国がCO2の累積排出量をバジェット以下に抑える取り組みを続けていかなくてはならない(図5)。
カーボンバジェットを考えると、発電所のように長期にわたって一定のCO2を排出し続けるインフラを建設するにあたっては、年間ではなくて運転期間を合計した累積の排出量を考慮する必要がある(図6)。たとえば火力発電所は通常40年程度の運転を想定しているため、40年間のCO2排出量がカーボンバジェットに影響を与える。
この点でCO2排出量の多い石炭火力発電所の新設は避けるべきだ。火力発電でもCO2排出量の少ないLNG(液化天然ガス)を燃料に利用する高効率の設備を優先させる必要がある。現在は石炭の輸入価格が安いために、発電コストの点から石炭火力発電所を建設する動きが国内では活発になっている。
そこで炭素税を導入すれば、石炭火力の発電コストが上昇して新設の抑制につながる。対照的に再生可能エネルギーの発電コストが低下して導入量を拡大できる。ただし炭素税の導入にあたっては、環境省だけではなくて各省庁が一体になって推進しなければ実現はむずかしい。とりわけ産業界を所管する経済産業省の意向がカギを握っている。低炭素を理由に原子力発電を推進することも考えられるため注意が必要だ。
関連記事
- 低炭素社会に向けた日本のエネルギー戦略、どうする石炭火力と再エネの拡大
日本が取り組む温暖化対策では2030年の目標達成だけではなく、2050年以降を見据えたエネルギー戦略の転換が重要だ。CO2排出量の多い石炭火力発電を抑制しながら、コストの低下が進む再生可能エネルギーを飛躍的に拡大させる。政府は2050年に向けた低炭素社会のビジョンを策定する。 - 「低炭素電源」を2050年に9割超へ、温暖化対策で地域経済を潤す
環境大臣の私的懇談会が国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに80%削減するための長期戦略を提言した。地域の再生可能エネルギーを中心に排出量の少ない電源の比率を9割以上に高める一方、建物の低炭素化や都市のコンパクト化を推進してエネルギー消費量を40%削減する。 - 電力を地産地消する動きが加速、原子力に依存しない分散型へ移行
日本の電力供給の構造が大きく変わり始めた。特定の地域に集中する大規模な発電所による供給体制から、再生可能エネルギーの電力を地産地消する分散型へ移行する。災害が発生しても停電のリスクが低く、新しい産業の創出にもつながる。特に原子力発電所の周辺地域で取り組みが活発だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.