2050年に自然エネルギー100%、脱炭素の長期シナリオ:自然エネルギー(2/2 ページ)
環境保全団体のWWFジャパンが2050年までに自然エネルギーを100%に高める長期シナリオを策定した。太陽光をはじめ自然エネルギーの電力・熱と水素を最大限に拡大する一方、産業分野を中心にエネルギー消費量を半減させる。理想に向けたシナリオだが、実現には課題も多い。
次世代自動車や地熱発電に過大な期待も
自然エネルギーの拡大と同時に、意欲的な省エネの目標も達成しなくてはならない。2050年までに日本の人口が76%へ減少(2010年比)する政府の見通しと社会構造の変化を前提に、新たな省エネ対策を実行しなくても20%程度のエネルギー需要を低減できると見込む。そのうえで新しい技術を活用した省エネ対策を実施して、追加で20〜30%を削減する。
WWFジャパンはエネルギー消費量を削減するシナリオの中で、産業・家庭・業務・運輸の4部門それぞれを対象に主要な対策を提言した(図4)。いずれも現時点で導入できる対策が並んでいる。各部門でエネルギー消費量を長期的に削減していくことは十分に可能だが、新しい対策を普及させるスピードが大きな課題になる。
WWFジャパンの想定では、2050年までに住宅のほぼすべて、それ以外の建築物の約4割が、現在の省エネ法の基準を満たす必要がある。政府は新築の住宅・建築物を対象に、2020年までに省エネ法の基準に適合することを義務づけている。それでも既築分を合わせると、2050年にWWFジャパンの想定する割合まで増やすことは簡単ではない。
次世代自動車の役割を担うEV(電気自動車)とFCV(燃料電池自動車)のハードルも高い。2050年までにほぼすべての自動車がEVかFCVへ移行して、2030年の時点で走行する自動車の半分以上がEV/FCVになる前提だ。政府が掲げる目標値では、2030年の新車販売台数のうち30%程度をEV/FCVが占める。ハイブリッド自動車を加えても50〜70%である。新車以外を含めた普及率はもっと低くなる。
一方で自然エネルギーの拡大シナリオにも課題がある。2050年に供給する自然エネルギーの内訳を見ると、地熱と波力の発電電力量を過大に見込んでいる可能性がある。地熱の発電電力量がバイオマスを上回り、波力もバイオマスと比べて5割強の水準になっている(図5)。地熱と波力は発電できる場所が限られるため、これほど大量の電力を国内で作り出すことは極めてむずかしい。
とはいえエネルギーの消費量を大幅に減らしながら、自然エネルギーの導入量を最大限に拡大していくことは、国を挙げて取り組むべき最重要のプロジェクトと言える。WWFジャパンの「100%自然エネルギーシナリオ」に可能な限り近づけるための施策の実行が求められる。
関連記事
- 長期低炭素ビジョンがまとまる、CO2排出量を80%減らす施策
環境省は長期にわたってCO2を削減する「長期低炭素ビジョン」の素案をまとめた。2050年までにCO2排出量を80%削減する目標に向けて、炭素税を導入する施策などを通じて産業界にイノベーションを促す。炭素税は石炭火力発電所の新設を抑制し、再生可能エネルギーのコストを低下させる。 - 電力を地産地消する動きが加速、原子力に依存しない分散型へ移行
日本の電力供給の構造が大きく変わり始めた。特定の地域に集中する大規模な発電所による供給体制から、再生可能エネルギーの電力を地産地消する分散型へ移行する。災害が発生しても停電のリスクが低く、新しい産業の創出にもつながる。特に原子力発電所の周辺地域で取り組みが活発だ。 - 「低炭素電源」を2050年に9割超へ、温暖化対策で地域経済を潤す
環境大臣の私的懇談会が国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに80%削減するための長期戦略を提言した。地域の再生可能エネルギーを中心に排出量の少ない電源の比率を9割以上に高める一方、建物の低炭素化や都市のコンパクト化を推進してエネルギー消費量を40%削減する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.